誰もいない部屋は無音だった。
冷蔵庫から水を取り出し、飲むと喉の奥がちりりと鳴った気がした。

もう夜が迫っている。
またあの夢を……、あの日の事件の夢を見たらどうしよう。
そんなことを考える。
結局、私のあの日の事件の本当の真相を知っているのは景吾と私と……あの人だけ。

氷帝のみんなは真相は知らないけど、大まかには知っている。じゃないと私と景吾が従兄妹ということを言ってはいけない、なんてことを受けいれるわけがない。

ことの始まりは、あの日。全てが狂ってしまったのは、私の存在。

そんなことを考えていた時、突然、電子音が鳴り響いた。机の上の電話が光っていて、それをとる。そして、聞こえる音。


『もしも……』

「お前の存在は、間違っている」

『……え』


一瞬で背筋が凍りつく。
男なのか、女なのかは分からない。おそらく、機械で変化させているだろうその声の不気味さは、私の体を硬直させるには簡単だった。


『……誰』

「お前の存在は間違っている。お前の存在はあってはならない。お前の存在はこの世から除外されなければいけない」


感情がこもっていない声がたんたんと私の耳を犯していく。
怖い、という感情を通り越して、気味が悪い。


「お前は過去から逃げているだけだ。お前は、人の上に立つ存在ではない」


ヤメテ。
怒りと、怖さと、何か分からない感情がどんどんと体を支配して、体が震える。
その声にあわせるように何か嫌な記憶が頭の中によぎって、吐き気がする。
血。私の存在が、邪魔?
分かってる。そんなの、分かって。


「お前の生きる価値などない」

『っ!!』


その台詞を言ったと同時に、その電話は切れていた。
通話口の向こうから聞こえるツーツーという規則的な音に震えはまだ止まらない。

私はその場に一人でしゃがみこんで、きつく唇を噛み締めながら胸のブローチを握り締めた。

誰か、助けて。
そう言う資格は私にはないのに。
だけど、叫びたくなって、ただ独りでに小さく涙を流した。





「玲華……。顔色悪いよ?」

『大丈夫だよ。早苗。ちょっと、昨日あまり寝れなかっただけ』

「無理、しないでね」


早苗がひどく心配そうにこちらを見つめてくるものだから、「大丈夫だよ」という微笑みは苦笑に変わってしまった。

そう、自分のことで他人に迷惑をかけるわけにはいかない。
生徒会長としての顔を取り戻すために、私は一度息を吐いて、心配そうに見つめる早苗の頭を撫でた。
彼女は、痛そうに微笑を返してくれた。

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