恋をしていた。

夢を追いかけていたあの人の背中に果てない恋をした。その目に少しでも映りたくて、少しでも近づきたくて、触れたくて。
結局あの人に想いが通じることはなかったけれども。そういう恋をした頃もあった。
そして今。


「玲華」


私はあの人のように。夢を追いかけている。あの人のように……自分、そして、いつか出会うであろうその日に想いを寄せる。
春の陽射しは、桜の花弁を淡く舞わせた。夢心地とも言えるその色を一人で見つめ、今終わった仕事の資料を、トントンと2回程机にうちつけ、整えた後でファイルをしまう。入学式を明日に控え、先程まで慌ただしく働いていた役員も家路へ帰宅した刻だろう。
夕方のオレンジは、生徒会室の半分ほどを照らし、私の視界さえも染めあげてしまいそうだ。ほう、と息を一つついた後、ゆっくりと瞳を閉じた。

生徒会室。私が望んだもの。

その一つ一つがジワリ、ジワリと指の先から伝わってくるのではないか、という程に心の中が泡立っている。それは一夜を過ぎて、早朝に生徒会室に訪れた際にも続いていて、興奮にも似た感情を落ち着けようと瞬きをする。

ついに、この日が来たんだ。
ずっと夢にまで見ていたその席から立ち上がり、左胸元に手をやる。そこにある、金の緻密な施しがされた金のブローチが音も無く爪の上で鳴って、朝日の光に反射しては存在感を大きく出す。
真ん中に埋め込まれた深い紅色の宝石を決して傷付けないように慈しみながら撫でた時、胸がもう一度鳴った。私が焦がれてたもの。そして……。


「私の愛しの玲華ー!!!」
『ぐふっ』


突然のタックルに倒れかけた体をどうにか立て直して、踏み止まったと同時に、またぎゅう、と音をたてそうなくらい、きつい締め付けが体を縛る。動けそうにもなく、とりあえず、と肩を落とし……。


『早苗。突然抱き着かないようにあれほど言ったような気がするんだけ……』

「駄目。私の愛しの玲華を見て何もしないなんて、イワシを前にして焼きも煮もしない和食の料理店の店主と同じ!!」

『よ……よく意味は分からないんだけど……とりあえず、離っ……私、窒息、しそっ』

「きゃあっ!!ごめん〜!!!」


やっとのことで救出された時には私は何時もの如くげっそりとなっていたのは言うまでもない

彼女は立川早苗。
口を開かなければ人形よりも可愛いらしく、街を歩けば一瞬で芸能プロダクションにスカウトされそうな勢いだというのに。
彼女の唯一の欠点は、その性格だろうか。いや、欠点と言っても悪いわけではなく、この子は単純に……。


「玲華を愛してるだけだよ」


……こういう子なだけだ。まあ、抱きしめられるのは以前より慣れてきたものだし早苗は私にとっても大切な相手には間違いないから。










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