忍足君に促されるままについていくと着いた先は氷帝高等学校のテニスコート。「私、景吾に帰れって言われたんだけど」と言う私の声と、遠くから聞こえてきた聞き覚えのありすぎる声はほぼ同じだった。


「てめえらなんかに俺の玲華を二度と渡すわけねえだろうがっ! はっ、調子に乗るのも大概にしやがれっ」


何これ。……いやぁ、別に景吾が私のことを「俺のもの」発言しているのは珍しくない。
まあ、景吾は独占欲が相当強いから、私が他の人といるのが嫌なんだろうな。けど、今回はなんであんな高らかに笑ってるんだろうなあ、と考えながらゆっくりと景吾に近づいていると、不意に隣から腕が伸びてきて、とっさに反応する間もなく腕が引かれる。

勢いよく見たその先にいたのは、白髪の人。私のことをじいい、と見つめているその双眸に少々困っていると、忍足君が私に気付いて戻ってきてくれた。


「こら、仁王。これ以上跡部の機嫌悪くなるようなことせんといてや」

「……面白いからのう」

「あかん。というか跡部が許したとしても恋人の俺が許さへん」

『いや、恋人じゃないからね』


「そうやったっけ?」なんてとぼける忍足君はいいとして、この人はなんなんだろう。って考えていたのはほんの数秒で、気付いた時には、体がふわりと宙を舞っていて、その人にお姫様抱っこされたのだと気づいた時には既に遅かった。


『ちょ、おろしてくださいっ』

「跡部―、連れてきたなり」



いや、なにが? ってつっこみたくなりながらも、次に見えたのは景吾の顔。ああ、これはやばいかもしれない。景吾の目線が痛いくらいに私にむけられていて、本当にそのまま刺し殺されるんじゃないかって思う。しかしその白髪君は私をお姫様抱っこしたままでおろす気配なんて全くない。

どうやら練習試合が終わった後らしく、景吾の後方には氷帝のみんなが、そして景吾の目の前には立海のテニス部がいるのが見える。
ああ、みんな景吾が暴走しだしたから私を呼んだわけか、とかぼんやり思っていると、ますます険しい形相の景吾が私に向けてほえた。


「てめ、仁王っ! 勝手に触ってんじゃねえ」

「そない怒りなさんな勝手に体が動いたから仕方がなかろう」

「意味わかんねえよ!」

『け、景吾落ち着いて……』

「てめえもやすやす他の奴らに俺の体を触らせんなっ」

『だから景吾のじゃないし』


なんで今日の景吾はこんなにぴりぴりしてるんだろうか。試合が始まる前に機嫌が悪かったのは、治ったと思ったのになあ、とぼんやり考えていた時、その白髪の人が私を地面に降ろしてくれた。とりあえず「ありがとうございます」とこぼすと「ぷり」と返された。……なんなのこの人。

とにかく景吾をなだめるために彼に近づいていく。……はずが、景吾にいきなり手を引かれて今度は景吾の胸にダイビングすることになってしまった。


『ちょ、けっ』

「いいか立海の奴らっ! こいつは俺の女だっ! 手出したらぶっ殺す!」

『いや、あの景吾、私……』

「私は景吾の彼女じゃないんだけど、とお前は言う。違うか?」

『柳君』


なんとか顔を上げたそこに見えた柳君は「相変わらず嫉妬深いな」と小声で言いながら私に微笑んできた。
だけどすぐさま景吾に抱きしめられてまたもや視界は景吾のユニフォーム。いくら従兄妹だといっても、みんなの前で抱きしめられても恥ずかしくないか、と聞かれたら恥ずかしいわけで、でももがいたところで景吾の機嫌をますます悪くするかもしれない、と考えた結果、おとなしくする事にした。


「それにしても跡部、その子明和高校の子、だよね。よくあの秘密の園の女の子を手にしたよね」

「はっ、てめえには無理だろうな幸村」

「ふうん。そう。で、櫻井さん。俺の試合、見てくれた?」


幸村君の声が聞こえてくぐもる声で「すいません、見てません」と言うと彼は「やっぱりね」なんて声。幸村君がしゃべるたびに景吾がぎゅうぎゅうしてくるから、痛い。というか、もう窒息しそうなくらい。それがあまりにも限界に達した時に、思わずばんばんと景吾の背中を叩くと流石の彼も気付いたようで、腕の力を緩めてくれた。

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