声のしたほうを見ると、やっぱりそこには景吾のファンクラブの子達の姿。
景吾が傍にいない事をよしとしたのか、彼女たちは大人数で一気に私の周りを取り囲んでしまった。

しゃがんでパンジーを見つめていた私を、上から見下すように腕を組んでいるその子達。
あーあ、笑ってたら、絶対に可愛いのにな、なんてこの状況で思ってしまう辺り私は少しおかしいのかもしれない。


「あんたさ、姉妹校の会長だからって、調子乗らないでくれる?」

「そうよ、跡部様にとってあんたなんて生徒会の同士以上のなんでもないのよ」

「彼女顔するのもいい加減にしてよね」


嗚呼、本当は従兄妹です、と言ってしまいたい。だけど、それを言ってしまっては、景吾をまた危険な目にあわせてしまうし、もしかすると景吾だけじゃなくて他の人まで傷つけてしまうかもしれない。
それを考えるだけで気が重くなり、苦笑をこぼしながら「ごめんなさい」と言うと、彼女たちはいかにも嫌そうに眉をひそめた。


「な、なによっ。謝るくらいなら跡部様に近づかないでくれる?」

『心配しなくても恋愛仲ではないですよ?』

「っ、むかつく……そうやって、謝れば許してもらえると思ってるわけ?」


馬鹿みたい、とこぼした女の子はどうやら私が非反抗的だから、反論するのに困っているらしい。毎回このヤリトリを繰返す度に、この子達に申し訳ない気持ちにさいなまれる。そう思ったときには、声が出ていた。


『そんなことは思ってませんけど……怒ってるよりも、笑ってるほうがせっかく可愛いのに』

「っ!! ば、馬鹿にしないでっ」



あ、やばい。そう思ったときには頬を叩かれていた。
反動で、眼鏡が落ちる音がして、次に見えたのはぼんやりとした世界。
どうやら目の前の女の子は私がそれでも反抗してこないことにさすがに焦ったらしく「こ、これ以上調子にのらないでよねっ」とかなんとか言いながら、大勢で何処かへ行ってしまった。

……まあ、これも毎回のお約束と言うか。景吾に内緒で私はこうやって彼女たちに呼びだされたりもする。
……というか。


「わざと、叩かれたんでしょ」


不意に声が聞こえて、とっさにそちらを向く。
だけど、見えるのはぼんやりとした色。しまった。眼鏡を落としたんだった。
そう思いつつも、その声に聞き覚えがあって、そのまま立ち尽くしていると、だんだんとその色が鮮明になってくる。

氷帝のジャージじゃない。
黄色。いや、山吹色。

だんだんと。
だんだんと。

近づいてくる人は、私の少し先でしゃがむような姿勢をしたかと思えば、目の前に立った。

視界に映る。蒼い色。


「なんでわざと叩かれたの?」


この人。昨日の人だ。
名前が思い出せない。誰だっけ。
そう考える私をよそに、彼は答えを促す。


『……こうすることで、彼女たちの気がおさまるなら、私はかまいません』

「今は叩くだけかもしれないけど、いつか殺されちゃうかもよ? それでもいいのかい?」


綺麗で残酷な声。どこか楽しんでいるような声音に、体が硬直しているのか弛緩しているのかさえ分からなくなる。

彼が何を私に聞きたいのか分からないけど、ゆっくりと私は顔を上げる。綺麗な色だ。
この人は、すごく綺麗な目で私を見ている。ぼやけた視界の中で、残酷なほどに優しい笑みが映る。


『ええ。かまいません。死ぬことなんて……怖くありませんから』


そう答えた瞬間、彼の手が頬に伸びた。それが先ほど叩かれた頬だと気づいた時には、既に。


「君は変わってしまった」


そんな彼の呟きと共に、私の体は彼に引き寄せられていた。

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