赤い色。その色を見慣れてしまった私はもうとっくに狂っている。


『やめて、お願いっ』


叫んでいる。
小さな子供が叫んでいる。まただ。またこの夢。ほら。またあの黒い世界にいるのは私一人。
世界に色なんて何も無くて、嗚呼、馬鹿みたいね。
だけど。どうしてだろう。
何か暖かいものが、頬に触れている気がするのは。


『け、景吾』

「……」

『ねえ、景吾!』

「……」


嗚呼、これはもう駄目だ。
この人はこうなってしまってはてこでも私の言う事を聞かないつもりらしい。

景吾の体重を体中で感じながら溜息をこぼすと、隣を横切った忍足君が「大変やなあ」なんてのんきに言ってきた。
いや、大変な事に違いはないのだけれども、これはなにか少し次元が違う。

こうなったのも、どこでなにがどうばれたのか知らないけど、昨日私が柳君と二人で歩いているのが景吾の耳に入ってしまったからだ。
昔から、私が異性と話しているだけで殺気だしまくりな景吾は、本当になんというか……。


「愛されとんなあ」

『いや、そういうのじゃないと……』

「そういうのに決まってんだろうが!」

『なんで怒ってんのさ景吾……』

「てめえが俺以外の男と歩いてたからに決まってるだろうが! しかも相手はあの立海のデータマンの柳だと!? どうりで、春会の時からお前に馴れ馴れしいと思ったらそういうことか。俺の玲華に手を出すなんざ、いい度胸じゃねえか。……はっ、今日の試合覚悟しておけ」

「いや、跡部、今日の試合お前はあいつとはしねえだろうが」


宍戸君がそんな事を言ったのにも関わらず、景吾は私をぎゅうぎゅうと窒息しそうなほど抱きしめたままだ。……というか、いくら氷帝テニス部のみんなが私と景吾が恋人とかじゃなくて、ただの従兄妹だという関係だと知っているといっても、かなりみんな目線に困っているじゃないか。
向日君は「跡部がマシンガントークだ」とか言ってるし。


『ねえ、別にちょっと話しただけだよ?』

「……却下だ」

『意味が分からないし』

「お前には俺がいればいいだろう」


耳元で低い声でそう囁かれて、反射的に体が跳ねた。
わざとらしく口元に笑みを浮かべたところを見ると、私のその反応が相当よかったらしくて、彼の機嫌も少しばかりよくなった気がした。


「他の男なんざに渡すか。お前は一生俺が面倒見てやる」

『私、景吾の犬か何かですかね』

「あーん? 嫌なのかよ」

『日吉くーん、この人を下剋上なんてする必要ないよー、っていたたっ痛いー……』



余計なこと言ってんじゃねえよ、とかなんとか言いながら私の頬を小さくつねってきた景吾にごめんなさいと言えば彼はゆっくりと私の頭を撫でた。

分かっている。景吾が心配してくれているってことは。

今まで、他人と必要最低限にしか関わろうとしてこなかった私が、急に柳君という単語を発したことに景吾が驚いていることも分かっている。
私でさえ、驚いているのだから。
でも、私が他人のことを信じようと思えるようになったのは。


『景吾のおかげ、なんだよ』


あの日から、誰も信じたくないと心を閉ざしてきた私の傍にいつでもいてくれたのは景吾だから。
そう付け加えれば、景吾は痛そうに眉をひそめた。




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