彼は、私を見てにかりと笑った。


「切原赤也っす! ……その……えっと、……もしかして柳さんの……」

「恋人っすか、とお前は言う。だが、残念ながら、彼女は俺と恋仲ではない」


残念ながら、って言われるとなんだか照れてしまうのだけれども。
不意にそんな事を言われたために小さく頬を染めていると、くすりと柳君が微笑んだ。


「彼女は、明和高等学校の生徒会長の……」

『櫻井玲華です。えっと……切原君?』

「っ、あっ、赤也でいいっす」


どこか照れ臭そうににっこりと人懐っこい笑みを浮かべた赤也君と私の間には長身の柳君。
そういえば、彼も月間プロテニスに載っていた気がする。


『……立海大の超エース……?』

「っ、え、お、俺のこと知ってんすかっ?!」

「赤也、あからさまに嬉しそうにするな」


どうやら当たっていたみたいだ。
そうか、この子がそうなんだ。
たしか、赤い目になって……悪魔化とかする人がいたことは覚えていたけど、実際に前にいたら妙な感じだ。
そう考えたら、景吾もあの雑誌に載るくらいだからすごい選手だったんだな、なんて今更になって思った。


『あ、でも……結構前に見たやつだから……まだ、赤也君が中学生の頃のね』

「それでも、なんか照れるっすね! よっしゃ! 先輩みたいな可愛い人に、そんな言われるとかやる気出るっす!」

『へ?』


反射的に聞き返したのと、柳君が何故か赤也君の頭にチョップを入れたのとはほぼ同時で、頭を抑えている赤也君は、なんだか少し可愛くも見えた。
私の周りにいる男子、まあ主に景吾が私を男子から遠ざけているからあまり触れあいはないのだけど、その彼らと比べると、まるで弟みたいな反応をする赤也君。

それにしても、私の姿を見て可愛い、なんて言うのなんて氷帝の天才君だけだと思ってた。
なんせ、私は髪の毛はひとくくりだし、眼鏡だし。……何故か、髪を下ろしたら景吾は怒るし。
まあ、私もこれが一番楽だからいいんだけど。


「赤也。彼女を口説こうなど思わないほうがいいぞ」

「っ、べっ、別に俺はっ!」


ばちりと目があった。……けど、とっさにそらされてしまった。
顔を真っ赤にした赤也君は、やっぱり弟みたいだ。


「そ、それにしても……どうして柳さんと玲華先輩が一緒に歩いてんすか?」

「ああ、彼女に宿の場所まで案内してもらっていてな」


そのついでに、世間話をしていた時にお前が来た、と付け足した柳君が「そうだな?」と同意を何故か求めてきたから、とりあえずうなずいた。


「ふうん。そういうことっすか」

『ええ。あ、こっちです』


彼が言っていた宿は、この辺りでもそこそこに宿舎料金が高い宿だ。さすがは王者、と言ったところか。宿泊施設にホテルではなく旅館を使うあたりが、少しばかり好感がもてそうだ。


「っ、あの、玲華先輩は、明日は何か用事があるんすか?」

『明日? 日曜日は……ないよ』

「っ、そ、そしたら、試合、見にきてくださいよっ」


ね、いいっしょ。と言われてしまっては、断れない。
まあ、明日は特に用事があるわけでもないし、……用事。


『あ、そういえば……』


そういえば、この間景吾から日曜日は氷帝の練習試合を見に来るように言われていたことを思い出した。
仕方ない。確かに、断るのは申し訳ないけど、景吾からの約束をむげにするわけにもいかない。


『ごめんね。実は、その日は氷帝の練習試合を……』

「あ、その相手俺たちっす!」

『……そ、そうなの?』











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