『秘密、なんでしょ?』
「指きりげんまんか。懐かしいな」
『景吾に必ずするの』
「ほう、跡部と共有する秘密ごととは興味深い」
そういえば知っていたか? と私の耳元で話す柳君の低い声に体が跳ねながらも、声に集中する。
「秘密を共有することで、二人の仲が深まるものだ」
『……へえ、じゃあこれでもっと仲良くなれるのか。いいこと聞いたよ、ありがとう』
「…………お前は、そっち方面は少し疎いようだな」
『ん?』
柳君は、なんだか小さく肩を下ろしていたけど「気にするな」と言われてしまった。気付けば、辺りは薄紅色に染まっている。
「綺麗だな」
『え? ……また私の心を読んだの?』
「いや、今のは俺の意見だ。お前とは景観に対する美意識が似ているらしい」
夕方のこの幻想的な空が好きな私は、生徒会室から見る空が好きだったりもする。なんだか、心がすっきりするから。
それを見ながらも、今デートの真っ最中であるだろう早苗と白石君のことを少し思い出して……。
『あれ、そういえば……、柳君、神奈川帰らなきゃいけないんじゃっ』
「ん? いや、明日も練習試合がはいっているからな」
平日なのに大変だ。 さすが立海大。彼らの練習量と氷帝の練習量はどっちが多いのかな。そんなことを考える。
『それじゃ、今日は泊まりなのか』
「ああ、明日は……。いや、なんでもない」
『宿泊場所まで着いていこうか?』
「かまわない、と言いたいが、お前ともう少し話すのも楽しそうだから途中までそうしてもらおうか」
柳君は、テニスバッグをからいなおすと芥子色のジャージを翻した。
……立ち上がったら、すごく身長差があるものだ。
景吾よりも確実に大きい。
「身長高いね、とお前は言う」
『……正解。柳君すごく大きい』
「弦一郎よりも高いぞ」
『へえ、あの人より大きいんだ』
柳君は静かな雰囲気をまとっているけど、いがいにも面白い、と考えながらも夕焼けの道を二人で歩いていた時。
「やああっ、やっ、柳先輩っ」
「…………なぜここにいる赤也」
そこにいたのは、先ほどわかれたはずの少年だった。
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