思わず零れた変な声に、柳君がくすりと笑った。うわ、恥ずかしい。というよりも、なんだか拍子抜けだ。絶対に、景吾と私の話をされるものだと構えていたから。
「どうして跡部との関係の話をしないのか、という顔だな」
『だ、だって』
「確かに其れも興味深いデータだな。しかし、お前はそれを聞かれたくないのだろう?」
ならば、無理には聞くまい。
そう言いつつもなんだか心の中を読めない人だ……だけど、なんだか少し肩の力が抜けた。
「それに、ああ言えば櫻井さんが着いて来ると思ったからな」
『……なるほど、釣られたわけか』
「すまないな。俺にとっては君だけでも十分興味をひかれる」
正面きってそんなことを言われると、正直どう答えればいいのか分からず、とっさに目線をそらした。
たしかに、景吾も恥ずかしい事をさらりと言ってのけるけども、彼のそれとは何か違う。あまり、話したことがないから、ということもあるかもしれないけど。
『……私、そんなにすごい人間じゃありませんよ』
「そうか? 俺には十分だ。……一つ、いいか」
『は、はい』
敬語を使うのはよしてくれ、とこぼした柳君は、柔らかい微笑をこぼした。
日本人的な美形に浮かぶ微笑は、本当に様になる、とか考えつつも、一瞬だけ戸惑ってしまった。
「いやか?」
『そ、ういうわけじゃなくて、ですね……』
あの事件があった日から、意識的に人を避けるようにしてきたものだから、どう接すればいいのか分からない。
学校では皆に会長として接しているから、向こうもそうやって接してくる。クラスメイトに対してもそう。先生に対してもそう。
だからこそ早苗は特別だった。彼女は高校に入ってからの友達だけど、全てを打ち明けた私のことを変わらず友達だと慕ってくれるから。
今まで役職を盾のように使ってきたのと、あまり男子とこうやって面と向かって話すことが少ないために、反応に困ってしまう。
まあ、氷帝のテニス部のみんなは別だ。彼らは、私のことを心から受けいれてくれている。
だけど、この人は違う。
確かに、初対面、というわけではないし同学年なのだからためぐちを使ってもいいのだけど。
「信じられないか?」
『っ!』
「……無理にとは言わない。言っただろう? 俺は今の君で十分に構わない」
なんだか、少し引っかかるような言い方だけど、彼が言いたいのはそのままでもいい、ということだろう。
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