テニスボールの跳ねる音。
テニスボールの舞う音。

軽い音と重い音とを耳をすまし聞くその時間。幸福に満ちた甘い空間は、蜂蜜と砂糖を混ぜこんだ程に甘ったるく、目の前に見える空間はただ光に満ちていた。


「玲華」


名前を呼ばれるという行為だけでひどく幸せで、ただただその声にうなずいた。
大きな手が。真剣な眼が。
少しの油断も許すことはないその心が。狂いそうなほどに、愛おしかった。

芥子色のジャージ。走る黒いライン。王者、立海大附属高等部。

その色を見た事があるのは、きっと、昔よく景吾に月間プロテニスを見せてもらっていたからだ。

先日、自宅に帰って不意に思い出したのだけど、この人は、立海大の参謀と呼ばれる男だ。

中学生の頃には、青学に負けて全国二連覇は成し遂げることは出来なかったらしいけど、この人たちも相当な強さなんだろう。

そういえば、この間の春会には、他にもテニス部員が来ていた。
景吾がよく話している「真田弦一郎」あの、妙に緊張していた人がその人か。手塚君とライバル、だったかな。
近頃では、そんなに月間プロテニスを見ているわけじゃないから詳しくは分からないけど。
そして、もう一人はあの紳士がにじみ出ている人だ。「柳生比呂士」あの人は、テニスというよりももっと違うスポーツが似合っている気もするのだけど……。

そんな中でも、参謀と呼ばれる柳君は別格な強さを持っているのかもしれない。


「ここでいいか?」


自分の暮らしている県ではないのに、まるで慣れているような仕草で私をとある公園に誘導した柳君は、人気が少ないベンチを指定した。

そのほうが助かる。……今から、話す内容は、決して他人に聞かれてはいけないから。

そう考えると、つらりと汗が滲んだ。

データマンである彼が私と景吾のことまで知っているとは誤算だった。だって、私は「今は」テニス界と何も関係が無いのだから。
どうにかして、口止めをするしかない。それしか手はないようだ。

木々が多いしげる下のベンチに座ると、柳君は「さて」と声を漏らした。

来る。絶対に、この人以外に知られてはいけない。
万が一、この人が私と景吾の関係をばらすというなら……その時は。


「まずは、こちらのことから話そうか」

『……へ?』




.







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -