彼の後ろにくせのある黒髪の少年が見えて、あまりにもこちらを見られていたために少し頭を下げると、勢いよく目をそらされた。
……一体なんなんだ。
『どうして、柳君はここに?』
立海大は、神奈川県に所在しているはずだ。その彼が今ここにいるということは。
「察しの通り練習試合、といったところだ」
『っ』
「ああ、すまない。顔にそういう風に書いてあったものでな」
柳君は、そう言いながら「ふむ」と一つ唸ると私の前に来た。
まるで心の中を読まれたようで少し驚いたけど、なんだかこの人は全てを見透かしてしまいそうな雰囲気をまとっている。
なんだろう。そんなに見られると、顔に何かついているのかと気になってしまうのだけれども。それにしても、この人はこの間も思ったけれど、本当に美人さんだな、なんて余計なことを考えてしまう。
閉じられている瞳の中では何を見ているのだろう。……というか、私のこと見えているのだろうか。
それにしても、見れば見るほど……あの人と少し似ている。
黒髪をもう少し伸ばして……それで、その目を。
「ちょうどいい機会だ」
『え?』
不意に口元に少し笑みを浮かべた柳君が、私の名前を呼ぶ。
「少し、話しをしないか?」
少し綺麗に、そして意味深に微笑んだ柳君の視線が私を捉えた。
この人は、何を考えているのか分からない。心の中が見えない、と言えばいいのだろうか。
景吾なんかは、顔に出やすいし、長く一緒にいたこともありそこらへんは分かりやすい。
だけどこの人は。
「ああ、そのように警戒しないでくれ」
『……』
「ただ、一つ聞きたいことがあってな」
柳君は、長身の体を少し折り曲げて私の耳元に唇を寄せた。
それをとっさに避けようとしたが、それさえも叶わず、彼の吐息と低い声が耳を伝う。
「君がどうして跡部と従兄妹だということを隠しているか、ということをな」
『っ!!!』
とっさに顔をあげたそこにいたのは、少しだけ意味深に笑う柳君。
どうしてこの人がそのことを……。
だけど、その動揺を悟られないように、心の中で声を押し殺して、私は、ゆっくりと微笑んだ。
『私もお話したいことがあります』
「それはいい。赤也」
赤也と呼ばれた先ほどの少年は、柳君から「先に帰っていてくれ」と伝えられ、「へーい」と間延びした声を出す。彼がいなくなるのを見届けた柳君は、一つ息をこぼして。
「さて、本題にはいろうか」
低い声で、唱えた。
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