『玲華ー』

「謙也君……あ」


そのまま振り返ると、そこにいたのは、謙也君とその後輩である財前君そして、千歳君だった。


「ども」

「久しぶりったいね」

『財前君、千歳君』


四天宝寺の皆は、高等部がないためにみんなばらばらになってしまったらしい。そのばらばらになったうちの二人が今、目の前にいる。財前君はともかく、あの千歳君がいるなんて珍しい。
放浪癖のある彼は、ただでさえ見つけることが大変なのに。

すると、ぽかんとしていた私に気付いた財前君が、いつの間にか私に近づいてきた。なんだか、前よりまたピアスの穴が増えた気がするけど。


「そない珍しいっすか?」

『え、いや。その、増えたなあって』

「別に、もう慣れっこっすわ」


ぶっきらぼうに言いつつも、どことなく昔よりも私に対して敵意をしめさなくなったような気さえして、少し頬が緩む。

中学生の時は少しトゲトゲしていた雰囲気は心なしか、柔らかくなった気もする。それもそうか、私が彼らに前に会ったのは……ちょうど四年前、か。

つくり、と。心臓が痛んだ。
その痛みを隠すように視線を彷徨わせていると、不意にふわりと甘いような空気が漂った。


「久しぶり、やないな。俺は」


ミルクティー色の髪と、柔らな微笑み。今もテニス部の部長を務めているらしい彼は、先ほどから頬が緩みっぱなしだ。


『白石君は、しょっちゅう早苗に会いに来るからね』


くすりと笑ってやると、白石君はばつが悪そうな顔をした。いや、少し照れているんだろう。
彼は、私の大切な副会長である早苗と付き合っている。……なんていうのは、正直最初は驚いたのだけれども、早苗のためにつきに一度のペースで訪れる彼は、本当に早苗のことを大切に思っているらしい。

早苗も、彼と会うときはすごく幸せそうで、二人して幸せなオーラを出しているのを見ていると、こっちまで幸せになる。


「なんや、とげがある言い方やんな」

『別に。ただ、早苗は愛されてるなぁ、と思っただけ』

「玲華っ! 私は、蔵よりも玲華を愛してるからねっ」

「それもどないやねん。けど好きやっ」

『……そんなことさらっと……』


好きやから仕方ないやろ、とこぼす白石君は、とろけるような優しい笑みを玲華に見せると、彼女は同じようにとろけそうなほどに幸せそうに笑った。

相変わらず仲のいい二人を見ていると、頭上に違和感を感じた。
その微かな重みに視線をあげる。


『あ、千歳君』

「久しぶりたいね」

『元気そうだね。よかった。どこにいたの?』

「きままにぶらぶらしとったっちゃ」


千歳君はさらに身長が高くなった、そのまま、またにこりと笑う。そもそも四天宝寺にいたのは、中学生のほんの二ヵ月だ。
四天の皆は、とても優しかった。中期転入生の私に優しくそして楽しく接してくれようと毎日声をかけてくれた。

だけど、全く周りに打ち溶け込もうともしない私のことを、何度も必至になって声をかけてくれたのが、謙也君、そして白石君だった。正直に言うと、あの頃の記憶があまりない。

いや、無いというよりも、無くしたいのかもしれない。

私が四天に行ったのは、あの事件があったからだから。
流れる血の鮮やかな色が、未だに脳内から離れないくらいだ。だけど、それはあまりにも自分勝手で、あまりにも自己満足に過ぎない。

気付けば私の前には千歳君じゃなくて謙也君がいて、「みんな久しぶりやろ?」「そうだね」と軽い挨拶を交わした後で、彼が私に苦笑をこぼした。


「もう、大阪には戻ってこんのか?」

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