「元気にしていたか?」

『うん。勿論。手塚君また強くなったんだってね。景吾がいつも……』

「お前は余計なこと言うなよ?」

『はいはい。……でも本当にすごいね』

「まだまだ精進が必要だが、そのように言ってもらえるとは嬉しいな」


そうだ、と口にした手塚君は、真面目な顔を少し緩め、口元を微かにほころばせた。


「会長就任、おめでとう」


真面目な声音に含まれた優しい音が、なんだか暖かく私は小さくうなずいた。


『これからは、会長としてよろしくお願いいたします』

「ああ、よろしく頼む」


そんな私のやり取りを見ながら、「相変わらずてめえらは固えな」って笑ってきた。
その一言にさっきまでの穏やかな笑顔が手塚君から消えてしまった事が、ちょっとだけ物寂しく思えた。


「そういや手塚。今年の青学は……」


そこから先は、景吾が手塚君に話しかけてしまったため、一人残された私は仕方なくその場を離れる事とした。
今日は生徒会の交流会だっていうのに、テニスのことを語らないで、と私が言えないのは、きっと景吾がテニスのことを語る時のその自然な仕草が好きだからなのかもしれない。
好きといっても恋愛感情ではない。

ただ、なんだかだんだん大人びていく景吾が、垣間見せる少年めいた表情が懐かしく思えて、ほっこりとした気持ちになるから好きなんだろう。
そんなことを考えていた時、ふと目の前に立ち尽くしている生徒を見つけた。

なにか者難しそうな表情で、空中を必至に睨んでいる。
もしかして、気分でも悪いんだろうか。そうとすれば、医療室に連れて行かなければ。その一心で、近づいたその人には、少しばかり見覚えがある気がした。


『あの、具合でも悪いのですか?』


尋ねると、その人の眉間のしわが一つ深くなった。
話しかけないほうがよかったかもしれない、と思ったと同時にその人物の名前が浮かびそうで浮かばなずに、もやもやとした。


「い、いや、このような場所はあまり慣れんものでな」


その人は、気まずそうに目をそらすと、腕を組んだ。
長身のその人は、どことなく貫禄が漂っており、高校生と言われなかったら大人にも見えそうだ。
それにしても、なんだかその人が漂わせる厳格さと景吾が作り出したこの空間があまりにも不似合いで、なんだか納得さえできた。


『そうですよね。ここで落ち着けって言われた方が無理ですもんね』


その人が、あまりにも強張った顔をしているものだから、思わず可愛い、なんて思ってしまい、微笑をこぼすと、彼はひどく珍しそうに目を開いた。


「……確か、明和の生徒会長、だったな」

『はい。櫻井玲華と申します』


あなたは、と尋ねる前に視界の端でちらりと見えたのは、明和の生徒の姿。ただ話しているだけならよかったものの、なにか様子が変だ。

隣にいるのは……青学の生徒だろうか。


『あまりリラックスは出来ないかもしれませんが、気兼ね無く楽しんでくださいね』

「あ、ああ」


本来ならば、このように別れるのは失礼だと思うが、彼女を放っておくわけにもいかない。
私はその人に早々に別れを告げて、女生徒の元へ向かった。


「ねえ、いいでしょ」

「え、その……」


会場で走るわけにも行かず、早歩きで近づくたびに途切れ途切れに聞こえる声。
詳しくは分からないが、怯えている表情からして情況はあまりよろしくはない。その男子生徒と明和の執行部の間に私が入ろうとした時。


「君、女性を困らせるのはいかがかと思いますよ」


私より先に聞こえた声は、とても流暢でしん、とした声。


「なんだよおま……」

「このような場所で女性を怖がらせるものではないと思います。いかがでしょう」

「……わ、分かったよ」



もしかして、ナンパでもするつもりだったのか、青学の生徒は遠くへ歩いてしまった。視線の先にいたのは、眼鏡をかけた男子生徒で、彼は穏やかにその二人の中に入ってくれたために、そこまで大きなことにはならなかった。
なんて紳士的な人だろうか。未だにこんな人がいるなんて、と独りでに関心していると、その人がちら、とこちらに気がついた。

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