「今日はただの顔見せみたいなもんだ。深刻な話もする必要はねえだろ?」

『顔見せって……あんた春会を一体なんだと……』


春会は代々続いてきた伝統的な交流会でしょ、と口を続けたが、景吾はそのままの姿勢で小さく息をこぼした。

耳にかかる吐息に私が体を震わせたと同時に。


「俺にとっちゃ、今日は会長となったお前の存在を知らしめるためのパーティーだ」

『っ!』


瞬時に顔を向けると、想像通りに挑戦的な色っぽい目をした景吾と瞳があう。
こういうことを、さらりといってのける従兄妹に振り回される自分をなんだか哀れにも思いながらも、結局景吾に支えられているんだな、なんて改めて認識をした。


『職権乱用』

「なんとでも言え。お前のためなら使えるもん全部つかってやる」


制服を着こなしているだけなのに、なんで彼は光って見えるんだろう。嗚呼、多分こういうことを簡単に言えるからなのだ。

優しい目をした景吾に気恥ずかしくなって目をそらしたのに、ちょうどあわせたようにやってきたのは、青春学園の生徒会長を勤めている手塚君だった。


「本日は、ご招待いただきありがたく思うぞ」

「ああ、手塚か。久しぶり、でもねえな」

「二週間前に練習試合をしたばかりだな」


中学生の時と同様、手塚君は景吾と同じで生徒会長を勤めながらも、部長という立派な勤めを果たしている。

私なんて、会長だけでいっぱいいっぱいなのに、それをこなしてしまう二人には本当に感服してしまう。


「櫻井と会うのは、久しぶりだな」

『そうだね。いつ以来かな……?』

「確か昨年の冬、と記憶している」


相変わらず大人びた雰囲気をまとっている手塚君と私が知り合ったのは、中学生の頃だ。景吾に「試合に来い」と半ば強引に連れて行かれたテニスの試合会場で、ひときわ強さを誇っていたのが手塚君だった。

それに、私が彼を知っているのは、景吾がよく私に話してくれたのもあるかもしれない。
私からしてみれば景吾も十分テニスのトップクラスだと思っているのに、その景吾がライバルだと口にした人物だ。

試合が終わった後に、景吾にこれまた無理矢理連れて行かれ、紹介された時には、なんだか大人びた人だな、なんて印象しか抱いていなかったけど、今となっては少し穏やかな顔で笑いかけてくれるようになってくれた。
普段はそんなに会うこともないから、本当に久しぶりだった。

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