春の刻。思い出す。記憶。追憶の中の静寂。舞う華。その色は桃薄紅。そう、桜。その華は桜というのだ。

舞う。色。そして。


「玲華」


この声は、この声は。
嗚呼、間違えるはずなど無い。
この声を、私が間違えるわけがない。

振り返る。その人の名前を呼ぶために。しかし、そこにあるのは。


『っ!!!!』


血飛沫。紅い、紅い。塊。
私の頬さえ染めていく、鮮血。


『いやあああぁぁぁぁ!!!』


所詮夢だ。分かっている。
分かっているのに、奮えが止まらないのは

それが夢ではないから、なのか。

氷帝高等部の敷地の広さといったら、それはもう恐ろしいとさえ思えてしまうほど。
まあ、さすがに東京ドーム何個分とかいうのは分からないだろう、なんてたかをくくっていた最初の頃の私の感覚は、景吾の一言で見事打破。


「三個分ぐれえだろうな」


簡単に言ってのける従兄妹を少々遠くに感じたのは、言うまでもない。
そもそも、明和女子もそこそこの広さを誇っている。

伝統校のわが校も、花や緑に囲まれた自然豊かであり、なおかつ古き建築物の趣さえ残している庭園というように、決して劣るものではないけれども、それでも氷帝とは比べてはいけないと思う。

大ホールと呼ばれる場所は、隣に食堂を隣接しており、まるでどこかのホテルのパーティールームと言われても不信感は抱かない。

そこに、軽い立食形式の食事が用意され、飲み物などは全て美しく磨かれたグラスと共におかれている。
王宮の雰囲気さえ漂わせる大ホールには、以前にも来たことがあったものの、改めて来るとやはりその威圧感や圧倒感を感じてしまう。



「お前が主催者だってのに、さっきからそんな調子じゃ先が思いやられ……」

『別に、ここは景吾の結婚式の会場なのかと思ってただけよ』

「……たいした皮肉だな」


小さくデコピンをかまされて、反撃するために肘でこづいてやった。私は資料を手に、青春学園、そして立海大附属の面子をぼんやりと眺めていた。

形式的な挨拶はやめだ、なんて言いだした景吾が、会長だけを集めて皆を解散させたのがほんの一時間ほど前。

確かに、形式的な挨拶をこんな豪華絢爛な場所でやられても、緊張感しか産まれないのは分かるけど、これじゃ交流会というよりも、本当にパーティーだ。

まあ、確かに緊張感はとけて、雑談をしているのだろうけど、笑顔を垣間見ることができる。私だって、こういう雰囲気が嫌いなわけじゃない。ただ、今日は仕事をしにきたモードだっただけに、拍子抜けしてしまったのかもしれない。

そんな私の気を察したらしい景吾は、その身を少しかがめて私の耳元に口を寄せた。





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