『春会って言ってね、氷帝と明和が合同で交流会するんだよ』

「あ、毎年してるやつだろ?くそくそ、俺も生徒会入ってたら玲華とゆっくり話せたのにっ」

「お前には生徒会は無理だろ」

「うるせーよ宍戸っ」



向日君と宍戸君が言い合いをし始めたのを眺めていると、いつの間にか部室に戻ってきていた日吉君と目が合った。
どうやらタオルを取りに来たらしい彼は、私と目が合うと少し不器用に口を開いた。


「会長、決まったんですってね」

『うん』

「あ、そうだそうだっ!おめでとうな玲華」



嬉しそうに笑う向日君と、鳳君。
それとぶっきらぼうにだけどおめでとうといってくれる宍戸君と日吉君。芥川君は、相変わらず私に飛びつこうとして日吉君に止められてたけど。忍足君が、ぽん、と私の肩に手をおいた。


「姫さん、無理だけはせんどきいな」

『……うん。ありがとう』

「仕事じゃねえときでもさ、来ればいいだろ」

『ありがと、宍戸君』

「べ、別に……こいつらも思ってるだろうしさ」

「そうだよ〜! もっとおいでよ」


まあ、私がここを訪れるのなんて景吾との打ち合わせばかりだから、何も用事がないのに此処に訪れることはまず無い。
なのに、こうやって言ってくれることがひどく嬉しくて、心がむずがゆくなった。


「ほんまにいつでも来てええのに」

『あはは、でも、君たちのファンに怒られちゃうからなぁ』

「別にいいだろっ! なんか言われたらぜってー俺ががつんって言ってやるからさっ! あ、じゃあ今度は俺たちが行こうぜ、な、ユーシっ」

「そやな。それもおもろそうで……」

『女子の足ばかり見る忍足君は却下』

「なんやそれ。傷付くわぁ」


そんなくだらない会話を繰返していると、どうも時間が来てしまったようで、皆がコートへ出て行ってしまう。

ついて来いよ、と言われついて行って練習を見学させてもらう事も考えたのだが、正直あの黄色い歓声の中で、他校の制服を着てテニス部を見学するのは少々体力がいる。

一番厄介なのは、私と景吾の関係を不審がる子達への対応だ。

私の勝手なお願いを忠実に守ってくれているらしい景吾は私と従姉妹ということは、他の生徒に黙ってくれているし、テニス部のメンバーもそれは同じだ。

きっと、私の過去を知っているから。

それを思うと、皆を縛っているような罪悪感にも襲われたが、かといって私と景吾の関係が多くの人間にばれてしまうことを考えた方が恐ろしかった。

これ以上、私のせいで誰かが犠牲になるのだけは耐えられない。
それだけは、何があっても避けなくてはいけないのだから。


私は、暇になった手先で胸のブローチをいじる。
キラキラと反射するそのブローチの中心に埋め込まれている宝石に目を集中させつつも、ぼんやりと物思いにふける。

本当に、これは夢なんかではなくて。私は、私の力でこの場所を勝ちとったんだ。
不安になる気持ちを押さえ込みながらも、必至に気丈な姿で歩く私はいかに滑稽な姿なのだろうか。

考えるだけでも嗚咽が漏れそうになるあたり、私はまだまだ弱い。
とにもかくにも、今は弱音を吐いている場合じゃない。

私が出来る最前線のことを、私の全身全霊を込めてやるだけだ。

それにしても……。


『遅い』


気付けば、部活が始まって三十分は経過している。
なにも連絡していなかったらまだしも、二日前から連絡をいれ、景吾もその時間には校門に迎えに来るとまで言ってくれたのに、どうも遅い。

そこまで急ぎの用事でもなかったが、あいにく私にも仕事がある。
それを今、副会長である早苗に任せている状態なのだ。それを考えると、あまり此処で時間をつぶしていたくはない。

そう思い、部室から出て生徒会室にでも顔を出そうか、と体を動かし部室のドアに手をかけた時。


「悪いな」


景吾の声がした。
盗み聞きをするようで申し訳なかったが、生憎、ドアノブを回しかけた中途半端な状態でそれを我慢できるわけでもなく、私は小さく扉を開けた。

その先にいたのは、景吾、と。


『あ……』


女の子だ。しまった。


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