氷帝学園高等部。
中等部からの持ち上がり生徒がほぼ全体を占めるそこは、一言で表すとしたら、まるで何かの宮殿かというほどに整い広大な敷地を誇る施設と、たかが高等学校と卑下することさえ出来ないほどの財力を感じる。
海外留学などは、この学校では当たり前の話で、先ほどからすれ違う生徒のどの身なりも、とても一般人が好き好んでも真似しようがないものばかりで、少々息が詰まりそうにもなる。
正直な話、……やりすぎだ。
校庭はだだっぴろいし、初めてこの学校に来た時なんて高校生にもなって迷子になりかけたほど。
大体、学食で出てくるメニューが、高級感に溢れすぎて、昼食さえ安心して食すことが出来ないのなんてこの学校くらいだ。
まあ、色々と言っているが、別に私はここが嫌いなわけではない。
ただ、現実世界から卓越したようなこの空間にいるだけで、ある一人の男がちらちらと私の頭をよぎるものだから困ったものだ。
私は、その男、景吾に会いに来たのだが、どうやら彼は現在席を外しているらしい。
部活の時間に来たら邪魔になるだろうと思い、わざわざ授業が終わると同時にやって来たというのに。
ついていく、と言い続け、駄々をこねる早苗を説得するのにどれだけ大変だったことか……。
ありがたい苦労では在るけれども。
まあ、景吾の家に直接押しかけてもよかったは、よかったんだが、どうもあの高潔で、緊張感の走る高貴な空間に行くのは気がひける。
それに……。
あの空間にこの私の存在は、不似合いだから。
つきり、と痛んだ胸を隠すように私は小さく首を横に振る。
彼は多くの仕事や用事を抱え込んでも一人で片付けるような男だ。
きっと今も、どこかで何かの用でも頼まれていてもおかしくは無いな、と自己完結。
……と同時に、どうして私はテニス部の部室にいるんだろうか。
「なんや、そない眼で見られたら緊張するわ」
『……にらんでるんだよ?』
会って早々肩を抱いてくるのなんて、早苗が見たら何て言うか……。おそらく、飛び蹴りだけじゃすまない。
さっきからフェロモンを漏らしまくっている忍足君を、無理矢理体から離したら「照れ屋やんな」と微笑まれた。
景吾、何度も思うけどあんたのチームメイト大丈夫なの?
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