「っ……ば、かみたいっ」


ぎりぎりと私の肌に爪を立てていた早苗は一度息を飲み込んで、そっと顔をあげた。
何故だろう。涙が止まらない。なんでだろうか。その理由に気づいたときは、もう手遅れだった。彼女のポケットから転がり落ちた小さな瓶。


『っ……早苗?』
「……本当は、ね……っ……この薬で玲華を殺せって言われたのっ……。玲華の実験は、失敗だから」
『……え?』
「実験なんかじゃ、なかったのっ……ただのっ、マインドコントロールだったから。っ、だから、覚えているでしょ? っ……昔の事、断片的に、っ……はぁっ」
『っ、やだっ、ねえっ!』
「だから、っ……玲華は、……モルモットなんかじゃないっ……人間、だよ」


その言葉に導かれるように目をやった先に、自分の腹に深く刃物を突き刺した早苗の姿が見えた。赤い色。あの日と同じ色が私の目の前で、大切な早苗から流れている。助けないと。でも、もう。間に合わない。そう直感的に感じている私に気づいたのか、早苗は頷いた。嗚呼、こんな終わり方望んでなんていなかった。違うよ。違うのに。


「玲華、私、のこと、許さないで」
『っ……一生、恨むよ。……だから、化けて出てきてね』
「っ……あ、ははっ……もう、玲華は、昔から、……寂しがりやなんだからっ……」


そこにある懐かしい笑顔に、私は心のどこかで安心していた。嫌だよ。いかないで。でも、もうこれ以上苦しい思いをさせたくなんてない。遠くで誰かが何かを叫んでいる。それさえ耳に入らない。これは早苗が選んだ道なんだ。私はそれと止めることなんて出来ない。そんな綺麗事を言っていいのか分からない。だけど、だけど。


『っ……大好き、大好き、ごめんね、大好きっ……早苗』


虚空に手をかざした彼女は、もう何も見えていないのかもしれない。
私がいない方向を見やりながら、かすれる声が響いた。


「……あり、がと」


消えいるような声で、それでいて優しい声で。彼女は息をとめた。










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