不意に、電子音が鳴り響いた。
景吾に「ちょっとごめん」と言いながら電話に出ると、そこから聞こえたのは白石君の声。いったいこんな時間にどうしたんだろうか。


「ちょっと、話したいことがあんねや」
『うん。……いいけど、その……』



ここに来てくれと言われたのは、私もよく知っている公園。小さいころにテニスの練習をした覚えがある。……これは、今の私の人格としての記憶じゃないのだけど。そんなことを想いながら、私はその場所に向かうことにした。

景吾は、今から白石君と会うということを許してくれるはずもなく、どうしようかと思いながらも「お願い」と必死に懇願すると「俺もついていく」と言い出したきり話しを聞いてくれなくて、神原さんまでも心配だから着いていくと言い出して、結局三人で一緒に行くことになってしまった。

公園につくとそこに行くと人影。



「……なにかあったら、俺を呼ぶといい」
『あ、ありがとうございます神原さん』
「こいつより先に俺を呼べ」
『あ、ありがと景吾』


じゃりじゃりと土を踏みしめながら進むと、次第にその姿が鮮明になってくる。
白石君は、いったいなんでこんな時間に話があるなんて言い出したんだろう。彼はいつだって他人を一番に考えるくらい人のことを考える人なのに。それほどに真剣な話なのだろうか。そんなことを考えながら足を進める。
だけど。
そこにいたのは白石君じゃない。
どうしてなんて言葉では言い表すことなんてできない。
きっとこうなることを私は心のどこかでわかっていたのに。

ああ、その姿を目にとどめた瞬間に体がぐらぐらとしだした。瞼の裏に残るほどの容貌をしたその姿のことを一度たりとも忘れたことなんてない。
喉の奥がつまる感覚を感じながら私はゆっくりと声を放つ。



『……早苗』



響いた声が、少し震えてしまって、それに合わせて彼女がちいさく微笑んだ。


あるところに少女が居た。
両親が強盗に殺され、なぜか少女は残された。
目の前に広がる赤い色と、人の形をとどめていない両親を見た時に、どうして自分は生きているのかと必至で考えた。
小さい脳みそでは理解なんて出来なかったけど。
そのわずか6歳の少女に手を差し伸べたのは一人の女だった。


「一緒にきなさい」


その手が酷く白かった事を少女は確かに感じた。
それが路上であった気もするし、どこかの店の中であった気もする。
そんなことは少女には関係のないことだった。
少女は愛を知らなかった。だからその手を愛と形容することにした。
それが正しいのか間違っているのかさえ少女には分からなかった。
ただ、愛情を欲していることだけは分かっていたから。
少女は愛のためならばどんな痛みにも耐えた。痛みを愛と形容することで痛みも苦しみも屈辱も受容した。
いつの日か少女はそれが愛ではないことに気づいた。しかしそのときにはもう自分の身体が人間と呼べないほどに汚れてしまった事に気づいた。自分は人間の皮を被った醜い化物だとそう思った。
だからこそ、光のようなあの少女に憧れと羨望と狂おしいほどの嫉妬を覚えた。
光の中で光のように生き、当たり前のように愛情を受け、愛を与え。
全てに満ち溢れた少女が、自分と同じほどの歳の少女がそこにいるのを知った時、確かに殺意さえ芽生えた。
だからこそ。……その少女を落とすことなどたやすい事だったはずだった。









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