「……大丈夫だ。会長になれたのは、このブローチを引き継げたのは、他の誰でもねえ、玲華の力だ」


私はなんて弱いんだろう。
景吾のその言葉にすがるように立ちながらも、平静を装っている。

ただ、エンドレスループ。
頭をよぎる過去の記憶と痛みと、苦しみと。全てが混ざり合って、ぐるぐると気味が悪い色に変色して私の体を蝕んでいく。

だけど私は無理矢理それを拒否するように唇を噛み締め、一度閉じかけた目をゆっくりと見開く。


『交流会、青学の手塚君も……来るのでしょ?』

「ああ、資料の確認をしたらまた来てくれ」


きびすを返そうとする景吾の後で桜の華が散る。
彼は、胸のブローチを静かに揺らしながらその場に立ち竦む私に「無理はするな」とこぼして、校門を出て行った。

小さくうなずく事しか出来ない私は、やっぱりその程度の人間なのだ、と風がせせら笑っている気がして、桜の花の色さえ濁って見えたまらなかった。

生徒会室に戻ると、早苗が満面の笑みで私を受けいれてくれた。
そう、立ち止まるわけには行かない。

私が望んだ道、私がやっと手に入れたもの。それを失うわけには行かないから。


交流会が二日後に迫ったその日、私は最終確認をするために氷帝学園へと訪れていた。
私の学校と氷帝学園とは徒歩三十分、電車では一区間という非常に近い距離にあり、勿論徒歩で来た私は日頃の運動不足もたたってか少々息をつきながらもその門の中へ入った。

明後日行われる交流会は、氷帝学園とその姉妹校である明和女子高等学校の両校の主催で行われる事に成っている。
両校の執行部役員の親交も含まれているその交流会は毎年春先に行われる事から「春会」と呼ばれ、両校の伝統的行事の一つとなっているために、たとえ相手の会長が従姉妹である景吾だとはいえ邪険には出来ない。

それに、今回は少し特殊なのだ。

何を考えているのかは分からないけど、景吾がその春会に青春学園高等部生徒会執行部と立海大附属高等部生徒会執行部を招待すると言い出したのだ。


『……ちょっと、景吾、何を……』

「両校の活性化と他校の良い取り組みをこちらにも取り入れることで、相互の情報の共有や、これからの運営がより効率的に行える」


……嗚呼、ごもっとも過ぎることを言われてしまっては、何も言い返せないじゃないか。
もちろんその景吾の提案に反対する人なんて無きに等しく、異例の四校合同春会が行われる事となったのだ。
私としては資料が多くなったり、確認事項が増えたりと役員に仕事を増やしてしまう事に罪悪感を感じながらも、愚痴もこぼさずに仕事をこなしてくれる彼女達の力もあり、その忙しささえ心地よく思えていた。

そんなこんなで、資料が出来上がり、最終確認に訪れたわけだけど……。


『で、なんでこういうことになっているんだろう』


ぼやいた私の肩に一つの手。


「姫さん、久しぶりやなぁ。相変わらずその睨むような眼ぞくぞくするわ。なんや、また美人さんになったんちゃう? 俺正直、明和はセーラー服を推進したほうがええと思っとるんやけど、姫さんが着るブレザーもええなぁ」

『……景吾―、此処に変質者が一名……』

「あ、くそくそゆーしお前っ!玲華に触るなっ」


私は確か、景吾と交流会の最終確認をしにきたはずなのだけれども……どうして、このダブルスが私の前にいるんだろうか。











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