「玲華……。早苗という少女を知っているな」
『っ……はい』
神原さんは神妙な面持ちでそっと声をこぼした。心臓の音が零れてしまいそうな緊迫感に呼吸音さえままならない。せわしなく目を動かしたくなる気持ちを抑え、ぐっとこぶしに力をこめる。
「彼女は、……早苗という少女は、お前の義母の本当の子供ではない。……養子だ」
『……え?』
耳の奥で、声がする。
嗚呼、この声を私が間違えるわけが無い。彼女の声だ。そんなことを考える頭の半分で、恐ろしい程に何かが暴かれていく。
「彼女の両親は彼女が6歳の頃に殺されている。その後引き取ったのがあの女だ」
早苗と義母様が、本当の親子じゃない?
同時に何か恐ろしい事が起こっている予感がして私は身震いをした。
確かに、義母様と早苗は顔立ちが似ているとは言えない。だけどそれは事実を知った後で気づく点であって、何も知らなかった私は彼女たちが血縁関係に無いなんてことは予想だにしなかった。そうしたら、早苗はどうしてあの人と暮らすことになったのだろうか。偶然? それとも、それさえもあの人の計算のうちであったとしたら。そうすれば、一体早苗の存在はなんなんだろうか。彼女は利用されていたのだろうか。それとも。
「大丈夫か?」
不意に声がしたのに盛大に肩を震わせる。
後を振り向くと、そこには何時もよりも幾分も優しい目をした景吾の姿。ファンの子達にさえ見せないような瞳を私が見てもいいのだろうか、なんて小さく思いつつも苦笑をこぼした。
『平気、じゃない、かも』
「……力抜け」
その身体を覆うように腕を回してくれた景吾の胸に身体を預け、そっと呼吸を整えた。
「今回、この事件の被害者は間違いなく玲華だ。……だが、彼女も……早苗という少女もその被害者だといっても過言ではないだろう……。お前には、酷な話になるが……」
今から一体私は何を知るのだろうか。
きっと知らない方が幸せでいるのかもしれない。時には知らなくてもいいこともあるのだから。だけど、違う。もう、「知らない」ことは嫌なんだ。この感情がたとえ、誰かに作られた感情だったり、私本来の感情ではなかったとしても、私はそれでもこのまま目を見開いていたい。そう思える。きっと強がりだと誰かに笑われるかもしれないけど、それでも。
『お願いします。……教えてください』