「なにかあったら、必ず俺に言え」


命令口調のくせに、そんな風に心配そうな目をしていると説得力なんてないよ。それを口にせずに、ただ広がる暖かな感情に私はこくりと頷いた。


『ありがと、景吾』


そのままくしゃりと笑えるほど素直にはなれず、照れ隠しでそっぽを向いてしまう私は、やっぱりまだまだこの男には勝てないんだろうけど。
その空気を割るのは。


「ちょっと! いくら従兄妹とはいえ長い!」

「『あ』」



二人して見ると、大変ご立腹の早苗。ごめんごめん、と彼女にこぼすと同時に左胸でまた一つきらりとブローチが音と輝いた。

従兄妹である彼の見送りをするために校門まで向かうと、遠くのほうから黒塗りの車がこちらに確実に向かってやってきているのが見えた。
相変わらず私の従兄妹様は、たいそう豪勢な暮らしをしておられる。
そんな感想を抱きながらぼんやりと目を瞬かせていると周囲が少しばかり騒がしくなってきた。

当たり前か。
男子禁制のこの空間に男子が存在して、それに追加してその男子が此処までの美貌を持っているとなったら、普通の女子が黙っているわけがない。
毎回の事ながらする密やかな黄色い声に、聞こえないように溜息を落とすと、そのまま頭を小突かれた。

もともと私と景吾が従兄妹だということを知っているのは、副会長である早苗と氷帝学園高等学校のテニス部だけなためもあって、私達が二人でいるところを見ていらぬ想像をしてしまうのは仕方ないとは思うけど。もしかするとカップルとでもら思われているかもしれない。

さすがに、規律が厳しいこの学校には、手放しに大声を上げて景吾に近寄ってくる生徒はいない。それでこそ我が母校、と言いたいところだけど、いかんせん、この男は見目麗しすぎる。 


『お願いだから次は裏門から入出して』

「別にやましい関係でもねえだろう」


どこか得意げに言う男に、私の苦労も考えなさいとまで思ったが。


「お前も晴れて氷帝学園の姉妹校の明和の会長になったんだ。大口開いて俺たちが従兄妹だって事を言って……」

『従兄妹だってことは黙ってて!』


反射的に喉を走った声音が大きくて、自分で放った言葉に自分でびくついた。
 

『ご、ごめっ……』


違う。別に景吾は全く悪くないのに。
景吾は私のことを傷つける意味で言ったわけじゃないのに。
私の……私の所為なのに。

体がひどく震えて、だけどそれを歩行中の生徒に見られたくはなくて、会長としての威厳を保とうと必至に冷静を装っていた時、ふわりと桜の花弁が私の頬に触れた。

淡い、淡い色。周囲の生徒の歩く音と共に景吾が私の髪についたその一片を人差し指ですくった。

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