君を守るために、彼女にはその道しか残されていなかったんだよ。
優しく語り掛けてくれる神原さんの言葉に涙が止まらない。母上は、私をトップにするために殺人を犯したんじゃない。私をトップに「しない」ために、私を人体実験の道具にしないために。
そのために、一人で汚名を被って死んだのだ。
辛かったに違いない。私と言う存在を守るために鬼になる覚悟を決めた母様はきっとその苦しさを一人で背負い込んだに違いない。
何より。愛する父様の精神が崩壊したのを見たとき、自分を責めたに違いない。


「玲華の母親をそこまで追い詰めたのは、俺の責任だ」
『っ、違いますっ……だって、神原さんは……』
「……それに、彼女がそこまで覚悟を決めて起こしたことを、俺は……俺の祖父が作った研究チームは無意味にしてしまった。……研究員は残っていたんだ。数人だが。そして君は、その数人に人体実験を受けてしまった……」


そこで言葉を切った神原さんは、そっと私の頬をもう一度撫でようとした手を下ろした。


「……本当は俺は、君に触れる価値もない。なんとか手を打とうと考えていただけで、守る事も出来ず、こうやって玲華に真実を伝える事しかできない」
『神原さん……』
「俺を憎んでもいい。ここで殺してくれてもかまわない。それが君の本望ならば。……だけど、これだけは覚えていて欲しいんだ」


俺は、君を本気で愛していた。
そう言った神原さんの微笑みは、記憶の中のものよりも何倍も美しく、それでいて何倍も、痛々しかった。


「玲華は幸村精市という男に恋慕を抱いていた。それでも、君のためなら命さえ惜しくないほどに君を愛していたんだよ」

それだけは、知っていて欲しいと、意識が戻った時そう思ったんだ。
彼の声音が私に届いた時、私はどんな顔をしていたんだろう。自分でも自分のことが分からなくなるほど頭が混乱している。一つだけ真実があるとすれば、私の体はやっぱり彼らによって人体実験の道具として扱われていたんだということ。それだけは変わりようのない事実なんだと思うとどんな顔をしていいかわからない。そのままうつむいていた私に、神原さんが名前を呼んだ。


「確かに、君の今の人格は作り出されたものかもしれない」
『っ……』
「……それでも、俺は今の玲華を愛している」


目を上げた其処に、真っ直ぐな瞳。


「君を一人になんてしない。人体実験をされたことで負い目を感じるというのならば、俺も同じ境遇として共に歩く。俺は、何があっても玲華の傍にいる」


そのまま恐る恐る近づいてきた手は、そっと私の顎をすくった。整った顔が私のことを捉える。人体モルモットという話しを幸村君はきっと知らない。彼が知っているのは、綺麗だったころの私。今の私は作られた人格を持っているんだから。愛情を受けようなんておこがましいといったあのスーツの男達は正論だ。
だからこそ、私は神原さんの想いを受けいれるべきなんだろう。

それなのに、どうして……どうして、声が響くの。


「その瞬間に恋に落ちたんだよ」


その声が、離れない。作られた人格なのに、彼のことが愛おしい。
幸村君のことが、愛おしい。









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