しっかり合ったままの目線がぼんやりとした。記憶の中の「あの人」は、今目の前にいる神原さんは、私の。


『許婚……?』
「玲華が知らないのは当たり前だ。許婚と言っても、俺の父と君の父親が決めただけだから制約があるわけじゃない」


微笑んだ神原さんのその笑顔を私が覚えているのは、神原さんが私の許婚だったからなのか。そう思うとどこか合点が行く。彼はきっと祖父様が裏社会とつながっていなければ製薬会社を継ごうとしていたのに。だから、私に「上を目指さなければ」と微笑んでくれたんだ。現実として、彼は上に立つことは無かったのだろうけど、この人だけは本当のことを言ってくれている気がしてなんだか少しだけ安堵した。

「……製薬会社を復興させようとしているのは、人体実験を研究していたチームのメンバーがほとんどでね、彼らは研究に恐ろしいほど貪欲だったから、どうしても復興させなければならなかったらしい。当初は玲華を人質に俺を党首にしようとしていた。勿論玲華を巻き込むわけには行かないから、俺はそれを君の両親にいち早く伝えた」

どこか言葉を濁す神原さんの笑顔を見た瞬間に、頭の中に衝撃が走った。
何かがはじける音がして、目の前がぐるぐるとめまぐるしく変化する。血の色。人間が倒れている映像。

『もしかして、研究員は、母様に、刺されたんですか?」
「……ああ。……そうだ」
『っ、……』


君には辛い記憶でしかないかもしれないけど。
そう付け足した神原さんは、その額を私の額にそっと当てた。近づいた呼吸が、混ざり合うようになって、真っ直ぐな目が私に近づく。


「……君の両親の愛は、素晴らしい。玲華は、父上は母上のせいで狂い、その母上はただの殺人犯と教えられたのかもしれないが、それは違うよ。……二人は、君を守るために犠牲になったんだ」
『私、を……?』
「俺の連絡を聞いた君の両親は、君を守るために研究チームの奴らを説得したんだ。娘は渡さないと。もう人体実験などは止めるように、と。だけど、研究チームのやつらはそれを拒否した。あろうことか、あてつけに君の父親を人体実験しその精神を崩壊させて、母親さえも手にかけようとしたんだ。彼女はせめて君だけでも助けようと思った。しかし、その方法はゼロに等しかった。そして、ほかに手段をなくした彼女はあの事件を起こした」










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