そんな私の様子を見ながら彼は酷く辛そうに眉をひそめた。どうしてこの人がこんな顔をしているのだろうか、となんだか不安になりながらも首をかしげると神原さんはそのまま私のことをもう一度抱きしめた。だけど、先ほどよりも少々力のこもったその腕が不思議で、正面から神原さんの肩に頭をのせるような格好のまま私は彼の名前を呼んだ。その声に返ってきたのは「すまなかった」という低い声。


『な、んで謝る……んですか……?』
「……玲華は俺のせいでこの数年苦しめられてきたのだから」
『あの、意味が……』
「受けいれられないかもしれない。だが、聞いて欲しい」
『……あの……』
「……君を実験したのは、……君の人格を作り出したのは、俺の祖父の会社の連中だ」


低い声が私の耳元でそっと囁かれた。いったいなんのことか判らないままで私は小さく頷く。答えた私を確認した彼は、すう、と息を吸った。神原さんが生まれた家は神原製薬という製薬会社をしていて彼の祖父も父も代々そこの社長となっていたこと。彼はその家の長男として生まれたから当たり前にその道を進むべき教育を受けていたこと。だけど、その跡を継がなかった事を丁寧に教えてくれた。

『……な、んでですか?』
「……祖父が、裏社会と繋がっていたんだ。それを父が告訴した」

神原さんの呼吸音が少しだけ早まった。一体どんな顔をしてこのことを私に言うのだろう。そして、なんで私に言うのだろう。そんなことを考えながらそのまま体を預けていると、彼が小さくその言葉を落とした。

「祖父は捕まり、父は病に倒れた。そこで製薬会社は倒産。しかし、もう一度神原製薬を復興させるように言ってきた連中がいた。俺は断った。第一俺自身はその当時まだ十代で、言いなり人形になるのは目に見えていたから。それに祖父が社長の頃は裏社会とつながっていた事も含めてあまりにも犯罪をおかしすぎていた。麻薬の取引、挙句の果てに人体実験にまで手を出していた」


人体実験。そのワードに過敏に体が反応した。
私は何をされたかなんて覚えていない。いや、今の私は覚えていないだけで、彼らが私の体を実験する前の私の記憶はそれを覚えているのかもしれないけど。


「だからなおさら跡は継がず、そんな製薬会社なんて滅びたほうがいいと思っていた。彼らが行う人体実験は、あまりにも非道すぎたから」


だけど、矛先は君に向いてしまい、玲華が傷ついた。
すとんと落ちた声と、少し離れた体。神原さんは、真剣な目つきで私を見つめる。

『どう、して?』

私は、神原さんとなんの関係も無いのに。
そんなことを心の中で思ったのを読み取ったように、彼は痛々しい顔で言った。


「君は……玲華は俺の許婚なんだ」









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