そもそも彼がここにいること自体がおかしいという一言で、本来ならば、この清楚清純を誇る明和女子高校から、男子なんていう存在は、今すぐ追い出してやりたいというのが本心だが、どうも私はこの男を心の底からは嫌いになることなんて出来ないらしい。
……だって、この男は、私の……。


「こぉぉぉぉら!あぁとべけぇいごっ! 私の玲華に何さらしとんじゃぼけー!」

「うぉっ」


嗚呼、今日もまた見事に早苗のキックは直撃するものだ。もうこれで、生徒会室の扉が壊れたのは何度目だろうか。
今月に入って、景吾がやって来たのが二回だから、その数と同じ数生徒会室の備品が壊れている計算になる。

予算が詰まっているというのに。溜息と共に見やる先には、決して人力では壊せないはずである倒れた木製扉と、目線をうつしたこっちには、同じく倒れた……。



『け、けいご……平気……?』

「……来るたびに聞くが、お前のとこの副会長は、格闘技でもしてんのか?」

『あ……はは』


早苗は、私と景吾の間に割って入ると、私の体に抱きついたままで、彼にものすごい睨みを利かせているのだけれども。
あの跡部景吾にここまで本気の蹴りを食らわす事が出来るのは、きっとこの子くらいなんだろうな、なんだか笑えた。
とりあえず、早苗を宥めてげんなりと顔をしかめる彼に手を小さく謝って手を差し出した。


『で? 今日はなんの御用で?』


尋ねた時に彼が、取り出したのは分厚い資料だった。


「交流会の日程やらを俺なりにまとめた。目を通しとけ」

『そんなのファックスで送ればいいでしょ』

「はっ。わざわざ来てやってんだ喜べ」

『……早苗、やっぱりもう一回……』

「ふざけんなてめぇ」


冗談だってば、なんて言いつつもくだらない言い合い紛いのものを繰返しているとやがて観念したように息をついたのは景吾だった。
少しだけ疲れた顔で彼は前髪を払うと、私の肩にぽん、と手を乗せた。

なんか会うたびに大きくなっている気がするのは、男子特有の成長期のせいなのか、それとも私の思い違いなのか……どっちにしろ、
相変わらず綺麗な顔をしてることだ、なんて心の中で小さく呟いて口元で笑った。

何だかんだ言っても、彼が来てくれる時には必ず理由がある。

今日だって、おそらく私が行う初めての仕事だからっていうそんな他愛もない理由でわざわざ自らやってきてくれたに違いない。
そう思うと、嫌味を言いつつも、胸の中に何か暖かいものが広がった気がした。


『ありがと……、来てくれて』


急に素直にこぼした私に少し目を見開きながらも、彼は優しく笑う。


「これでやっとお前の長年の夢が叶うって日に祝いに来ねえ奴があるか」


そのまま優しい眼差しが私の前で零れた。この深青の瞳に何度助けられたのだろうか、なんて。
きっと、そんな彼を毎日のように眺める事の出来る学校の生徒はこの整いすぎた表情、何をするにも優雅な仕草に目を奪われてしまうんだろうと私にも納得できた。



.







「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -