*拝啓彼氏様の幸村くんに質問です! かっ、彼女さんにはいつ手を出すんですか?もしや出したくても出せないというまさかのヘタレなんですか!

「……だよね。やっぱりもう食べてもいい頃だよね」
『……はい?』
「あ、いや。こっちの話」


電話越しの名前は、勝手に「お腹すいたの? それともカップラーメン出来た? 電話切ろうか?」なんて意味不明なことを言っている。俺が海外に渡ってもう三年は経とうとしている。本来なら三年後には日本に帰る予定だったんだけど、色々とこちらのチームに気に入ってもらえてここに残留している。帰りたいという気持ちともっと上を目指したいという気持ちは同じくらい強くて、迷い迷って電話すると俺の愛おしい人は「待ってるから。だから、精市のしたいことをしたいだけやってきて」なんて。……本当によく出来た彼女だと思う。今だって、俺の食事の心配をしているし。ツンデレ具合は昔に比べれば薄れてきた気がする。電話越しの彼女はいつだって幸せそうな声音をしていて、目をつぶっただけで表情が分かる。
教員試験採用された名前はこれからもっと様々な人の目に触れて、傷付いたり躓いたりしながらもまた立ち上がっていくんだろうな。きっとその度に彼女はうんと美しくなる。人間の一番美しい時期と称されるその時期に傍にいられないことが辛い。……というか、愛おしい人の身体を抱きしめることも出来ないことがこれほどに辛いなんて思わなかった。だからこそ、一度は別れも決意したっていうのにさ……今となっては、こいつが居ない世界なんて想像できないししたくもないけど。
まあ、そこでぶつかるのが触れたいとかキスしたいとか言う欲求であって。……いや、がちでこれは深刻な問題だよね。ああ、やっぱりこっちに来る前に一度抱いとけばよかったかな。でも、あいつの身体を知ってしまったらきっと俺は毎日、自分で欲求を解消しないといけなくなるわけであって。ああ、でも。


『ち、精市』
「あ、ごめん。ちょっと考え事してたよ」
『……やっぱり、今日の精市おかしいよ。……なにかあった?』


まさか、お前を抱きたくて最近悩んでいますなんて言えなくてとりあえずごまかした。毎日だってお前のことを抱きたいと考えているよ、なんて言えなくて、煩悩を消すためにも溜息を吐いて。


「……とりあえずさ、……俺が帰ってきた日に俺ん家ね」
『え、うん、なに?荷物の整理とか手伝えばいいの?』
「あー、荷物というか、うん、……抱きたい」
『だ? っ、いっ、ば、っ……わ、……分かったから、と、とりあえず早く寝たほうがいいよっ。明日早いんでしょ? 無理させちゃやだなんだけど……』
「……」
『……精市?』
「やっぱり、今すぐ帰りたい。ってか抱きたい。お前可愛すぎる。なんなの?意味が分からない。調子に乗るなよ? これ以上可愛くなったら許さないから」
『な、なんで変なとこで怒ってるわけっ、も、もうっ、早く寝てよっ』


電話の向こうで焦りながら、彼女は噛みまくりな口調でまくし立ててきた。嗚呼、とりあえず帰った日に俺に抱かれることは同意してくれたと見て、俺の帰国の日があいつのはじめて記念日になるわけであって。……だめだ、これは深く想像してしまったら眠れなくなりそうだ。そんなことを思いながら「おやすみ」と電話の向こうの愛おしい彼女に囁いた。願わくば、次にこうやって囁くときは、純白のシーツに包まれた名前の耳に直接囁きかけられるように、なんて。


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>ハル様
質問ありがとうございました。
そうですよね、幸村君はまだヒロインちゃんを食べてないんですよねヘタレです。
……じゃなくて、ヘタレじゃなくて、抱きたくても抱けないんですよね。抱いちゃったら、その快感覚えちゃって自分も大変になるって彼もわかってたんですよ、いやあ、恐るべし。彼女が可愛い上に色気まで身に付けちゃったら変な虫も寄ってくることですし。ということで、電話口でモンモンする幸村君でした。
幸村君がちょっと下ネタ気味ですがどうぞお許し下さいませ。リクエストありがとうございました。







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