強気な態度とっているのは照れ隠しなんだってことを知っているのはきっと僕ぐらい。彼女の時折見せる頬を赤に染めた表情に僕は何度も心を揺らされる。取るに足らないような出来事に一喜一憂しながら、俯きながら少し照れくさそうに唇を噛む仕草は、彼女のことを誰より見ている僕だけが知っている。……その感情は僕に向いてなどいないんだけど。


「ねえ、どうしたら僕を見てくれる?」


そんな恋止めちゃいなよ。どうせ叶わないんだから。ほら、僕だったら君を幸せにしてあげられるのに。君なんかじゃきっと彼と付き合うのなんて無理だよ。
そんな辛辣な発言を繰返しても彼女はあえて強気に笑う。私はそんな言葉じゃ泣かないわよ、みたいな顔しながら僕の前で先ほどと一寸変わらぬ動作を繰返す。さっきと変わったのは、落ちてきた髪の毛を数本指で耳にかけたくらい。それがイラつく程嫌で、同じ事の繰り返しをしているのにも関わらず僕はまた毒を吐く。


「だって、一君はどう見たって千鶴ちゃんのこと好きじゃん。君は完全に邪魔者だよ」
『そうかもね』
「……傷付きたいわけ?」
『まさか。そんなに刺激は求めてないよ』


そしてまた動揺をひくりとも見せることなくシャープペンシルを動かしている。鋭い眼を僕には一度も向けてくれない。まるでCDでも聞き流しているように口元だけ緩める。やめてよ。不愉快だ。もっと僕に反抗して、泣きついて罵ればいいのに。「総司なんかに何が分かるの」って言って僕の胸を叩けばいいのに。そしたら僕はその小さな体を抱きしめて、優しく甘くとろけそうな言葉を囁きながらその心を癒してあげるのに。だけど皐月先輩はそれさえも許してくれない。僕に寄りかかることもしない。かといって張本人に思いを告げるつもりもないらしい。ずるい。この人はズルイヒトだ。きっと誰より一番、あいつの気持ちを知っていて、あいつがその目で誰を追っているか知っているのにそれでもあいつに恋をする。そして、僕の目が誰を捕らえているのか知っているのに……彼女はそれを受けいれることなんてない。



「ねえ、先輩」
『なに、総司』
「…………お願い、僕を見てよ」


確か数分前にも言ったはずのその言葉はさっきとは少し違う意味を含んでいる。彼女は僕のことなんてきっと「後輩」とすら思っていない。彼女の前では僕の存在なんてその目線を向けるにも足らないものなのだと思うと何故か心臓がはらはらと音をたてて崩れていくような気がした。その音に混じって、彼女が顔を上げた。



『総司、もう帰らないと遅いよ』


やっと目を向けてくれたそこに写る僕はきっと酷い顔をしている。酷い人だ。その目に映る僕のことなんてきっと少しも恋愛対象として捕らえていないのなんてありありとわかる。その姿を見て僕はまた思う。
不毛な恋をしている彼女は誰の愛も受けいれることもしない酷い人で。だけど僕はきっと誰よりもそんな彼女を愛してしまっている。




目線さえ奪えない


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