≠千鶴


雪がはらりらと舞い散る中で貴方の姿を後から見つめる。白いそのセカイの中で映えるその黒色があまりにも綺麗で私はまた息を飲み込む。紫色の髪に混じり合う雪にさえ痛いほどの嫉妬を覚える。もしも私が雪だったのならば、あの人の肩にあのように簡単に触れる事もいとわなかったのに。今の私はただその背中に恋焦がれる憶病者だ。
心の中に浮かんだ感情なんて分かっている。だけどそれを口にしてはいけない。だって彼は、彼の隣には。


「斎藤さんっ」
「千鶴、か。どうした」
「いえ、お姿をお見かけしたので」
「そうか」

ふわりと笑うあの子の笑みはどこまでも美しい。
血に穢れていないその手は酷く綺麗だ。


「体を冷やしてはいけない。中にはいるといい」
「はい。では斎藤さんもご一緒に……その」
「……ああ。そうだな」


この感情は、誰にも伝えることのないままで私は生きよう。そう誓ったのだから。きっといつかこの命は散る。無駄死にするつもりはない。最後まで武士として生きていたい。それが、女の私さえも武士と認めてくれた近藤さんへのせめてもの忠義だから。
だからこそ、私は自分の感情なんかに流されてはいけない。女としての自分を捨ててでも武士の道を選んだあの日を悔やむことはしたくない。

だけど、その気持ちは斎藤さんを見る度に脆く脆くなっていく。嗚呼、私はなんて弱い人間なんだろう。あの二人が幸せそうに笑うのを見る度に視界が眩みそうなほどに痛みを感じる。
叶わないからこそ愛おしいのだろうか。
自嘲的に笑いながら私はそっとソラを見上げた。
この雪を美しいと思っていたあの頃に戻るにはもう、私は人を斬り過ぎた。人並みの幸せを求めるには、多すぎるほどのものを犠牲にしてきた。
空っぽになった体に燃え上がる斉藤さんへの想いが、くすぶるように体を温めているなんて。そう思い苦笑していると、ぽん、と肩を叩かれた。


「お、なにしてんだよ皐月」
『んー、ちょっと、ユキを見てた』
「ふうん。土方さんが探してたぜ」
『ありがとう平助』


一度瞬きをしてそっと手を伸ばしてみた。手の中に舞い落ちた雪の粒はすぐに手の中で溶けてしまう。

次に生まれ変わった時。
私が全く別の姿に生まれ変わったとしても。
もしもその時代にも私の愛した貴方がいたとしたら。
もしもその瞬間に斎藤さんも私のことを見つめてくれていたら。


『どうか、貴方だけを、永久に見つめることを許してください』


決して誰にも聞き入れてもらえることもないその願いは、この雪が降り終わる頃に忘れようと思った。生まれ変わることなんて出来ない。分かっている。嗚呼、分かっている。
だから、次に歩き出したその一秒先には、この果てない愛おしい想いも、捨ててしまおうと。あの二人の姿を見て、優しく微笑むことが出来るように、未練がましい思いは捨ててしまおう、と。

そう、思った。



深愛


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