※過去拍手夢


「幸村君って、八方美人って言葉がよく似合うよね」

「お前、しょっぱなからいきなり失礼なこと言うね」


幸村君は、なんだか不機嫌そうな笑顔を貼り付けたまま私に顔を向けると、この笑顔が八方美人かな? なんて言って来た。
あ、やっぱり怒っちゃったか。
まあ、私が怒らせたんだけど。

だけど、思わず顔がにやけてしまうのは、絶対にさっき柳君から聞いた言葉が頭に残っているからだ。
そんな私に気がついた幸村君が、ますます不機嫌そうに眉をひそめた。


「なに、喧嘩うってるの?」

「ううん」

「じゃあ、なんでにやついてるわけ?」


気味が悪いよ、と。またまた八方美人な笑顔で私に言ってくるものだから、思わず幸村君の胸に飛び込んで、頬を胸に擦り付けた。

暖かい体温が布越しから伝わってしまえばいいのに、というほどに上がった私の思い。

ねえ、私ね。


「すごく嬉しかったの」

「……何が?」

「幸村君が八方美人で」


お前、さっきから大分失礼だよ、とむっとした幸村君の喉下に目を細めながら顔を固定させると、私は幸村君の甘い空気を吸い込んだ。


「だって、幸村君。私にはそんな風に笑わないもん」


それって、私には八方美人じゃないってことでしょ?
柳君が教えてくれたんだから。

お前の前では精市は自然体だな。
そう、言ってくれたんだから。


「……別にいいだろ」

「うん、いいよ。だって、私にまで完璧な幸村君を演じる必要なんてないんだもん」
 

それにね。


「幸村君の本当の笑顔をみれるって世界一幸せだモン」


そういうと、しばらくして深い深い溜息と共に、頬に一つ唇が落ちてきた。

ああ、暖かいな。
なんて小さく呟いたら。


「お前は世界で二番目だよ」

「……なんで?」


首をかしげた私に幸村君はさも当たり前のように答えた。


「世界一は、そんなお前をモノにした俺だから」


そう言って笑う幸村君の顔が、子供っぽくて、みんなが知らないようなその表情に最高級の愛おしさを感じてしまった

裏が見れるって幸せなんだよって彼女は笑って言いました。

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