柔らかな笑顔と、時折響く強気な声。サラサラとなびく髪に何度も奪われた心。甘い唇に、嘆きたくなるほどに、掻き乱された瞳。
気づけば側にいてくれた、貴女の姿。
生徒会の資料の中に「 」という名前を見つけただけで、高鳴る心臓の鼓動はきっと、生涯忘れることも出来ないだろう。

『ごめんね柳生君』
「……」
『本当にごめんね……幸せになってね』

謝らなければいけないのは、私だというのに、涙ながらに言う貴女に背を向けた。今だに、貴女の笑顔が忘れられないなんて、笑ってくれていい。あの日、別れを告げたのは私だというのに。

手を離したのは。私で。傷つけたのは。私なのに。

「 ちゃん」
「ちょっ、仁王君っ!! いきなり抱き着かないでって言ったでしょ!!」
「冷たいなり、彼氏なんに」
「っ……もう、ずるいよー」
「赤くなって可愛いなり」

別の男の腕の中で照れ臭そうに笑っている の姿を見るだけで、息苦しさを感じる。

もう、この腕に抱くことは出来ない彼女の体温。
重ねることは出来ない彼女の唇。

「愛しています」

本当は、今でも。だけど、もう、その資格は無い。たとえ、貴女を守るために別れを選んだとしても。
そのことを素直に貴女に言えば、再び元に戻れるかもしれないとしても。

「ほら、行くぜよ」
「待ってよ、仁王君」


貴女の視線の先にはもう、戻れない。

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切ない柳生を。


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