彼が笑う。
酷く綺麗に、残酷に。
触れた指先は冷たくて、感じた熱は痛々しくて。


「ねえ、私のこと……ちゃんと好き??」

「おん」


その目が私を見ていないことくらい分かってるよ。
あの子しか見てないんでしょ??
あの子のことしか考えてないんでしょ??

知ってるよ。
私が君を縛っていること。

分かってるよ。
君が私を一人にしないために側にいてくれてること。

それなのに、君の彼女っていう肩書を利用して、君の側に居続ける私は酷い奴でしょ?


「ねえ、蔵」

「なん??」

「好きよ。好き、蔵だけを愛してる」


俺もやでって言いながら、優しいキスをしてくれるクチビルは、最低な私に対する同情なのにね。

嗚呼、馬鹿みたい。
そうやって、痛そうに笑う蔵が嫌い。嫌い。……嫌いな所が好き。
そしてまた、蔵に口づけをせがむ最低な私を、どうか嘲笑して頂戴。

行かないで。
あの子のところなんて行かないで。
私のことを見てよ。
ちゃんと、私のことだけを見て。

あの子じゃなくて、私と付き合っているのに、あの子のことが好きなんでしょう?


「ね、蔵のこと殺してもいい?」


その心が手に入るなら。
一緒に逝きたいのに。


「……そないこと言ったらあかんやろ?」


ほら、怒らない。
諭すように私の頬を撫でる。私を見つめる、虚無の感情。
だからこそ美しい君の笑顔に、私はゆっくり瞳を閉じた。
酷い人。
その人を縛りつける最低な私。




『酷い奴だと笑ってよ』


−−−−−−−−−−−−−
人間なんて、所詮嘘吐きでヤキモチ妬きな存在である。という自論。

.



- ナノ -