ちらりと制服の下から、鎖骨やらを見せれば、大概の女は俺に擦り寄ってきよった。
そのまま、俺が何も言わんでも、勝手に体を開いて、奇声をあげながら感じるんは結構日常茶飯事なり。

だからこそ。


「お前さんも、そろそろ俺に落ちんしゃい」


冷たく、痛々しい視線を送ってくるお前のことを。


「あいにく、嘘をつく人は、死んでも無理なの。君の噂は良くないものばかり。近づかないで」


だから、なにがなんでも落としたくなる。何を言っても、何をしても表情を変えない隣の席の女。

俺が教科書忘れたと嘘をつけば『可哀相に』と言い放ち、俺が好いとうよと囁いてやれば、『向こうで睨みを利かせてる女の子に相手してもらえば』と片付ける。


「私が君の思い通りにならないからって、無駄に話し掛けないで。迷惑」


まあこいつの言うとおり、簡単には自分の手に入らんものだから、こんなに手に入れたくなるんじゃろな。

ただ、酷く冷めた目のあいつを屈服させたいなんてくだらない独占欲と支配欲が、俺の全てじゃ。

なんて。

そう片付けて、明日はなんと言って困らせてやろうかと考えていた矢先、あいつが呼び出しされてる姿を見た。確か、前に相手した女じゃったなあ。めんどくさい。それより、助けんと。


「仁王君はあたしのものよ。調子にのらないでくれる!?」


じゃけど、すぐに反応できんかったのは。
普段は、あまり他人と言葉を交わさない内海が。


「あの人は『モノ』じゃない」


酷く美しかったから。
どうしたものか、気付いた時には体が勝手に動いて、彼女の細い首に顔を埋めていた。

俺の登場に驚くどうでもいい女と、やはり冷めた内海。


「仁王君っ!!?」

「……盗み聞きなんて最低」


きんきん声で叫ぶ女を「邪魔」と一蹴して、俺は再び内海の首に顔を埋める。聞こえたのは、くぐもった声。


「……全校生徒を相手したとか、教師に手を出したとか……、君は……良くない噂ばっかり」

「……ほうか」

「けど、……だから、私は、君自身が見たい」


だから、どれか一つ、本物だけはなくさないで。
そう言って彼女が初めて見せてくれた、痛いくらいの笑顔に、呼吸が止まりそうになったのは言うまでもない。


「じゃあ、その一つの本物を、お前さんがくれんかのう??」


抱きしめて、口づけて、二人で覚めない夢の中で溺れよう。

それこそ、俺の愛おしくも狂おしい真実。



『FAKE』



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仁王君のFAKEを聞いて。






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