「狭いーにーほーんー,そんなに急いで何処へゆくーんーやー」

「……」

「あ、謙也君ではないかっ」

「お、おん」

「いやあ、謙也の歌いいねえ。ノリノリになるよ」


いやいや。
謙也君ではないかっ。やあらへんから。
そりゃ好きな子が俺のことを歌ってくれとるっちゅうのは俺も嬉しいけどな。第一に……。


「それ、俺が歌ってる歌ちゃうし」

「…………えー、嘘」

「なっなんや、その視線はっ」


あきらかに俺のことを信じとらんっちゅう顔やなあ。うわ、目線痛いっ、何事やっ。


「だっ、だいたい、自分で『ほらやっぱり言わんこっちゃないわ』とか言わんやろ」

「アハハ、ウケるっ」

「かっ、勝手にうけんなやっ!!」  


なんなん、この子。俺めちゃくちゃからかわれとんのやけど。
まあ、からかわれてでも喋れるからええか。
って俺どんだけ負け犬思考やねんっ!! おかしいやろ!!
からかわれて喜ぶなんて、俺ありえへんやろ!! 侑士やないんやから。


「アハハ、やっぱり謙也からかうと面白いねー」


やっぱりからかわれとったんか俺っ!!
いや、ちゃんと気づいとったけどな。あかん。ここでガツンと言ってやらな、男としてあかんやろ。


「お、お、おいっ、それ以上言うたら、言うたらなっ!」

「私と結婚してくれる??」

「おっ、おうっ!! それが言いたか……えええええっ!!!! お前っ、はっ、ななっ、何を言うとるんかわかっ」

「あは、謙也うけるー」

「…………なっ、なんやっ、やっぱりからかって」

「じゃあ挙式は、謙也が決めてねー」

「っ!!? おっ、おまっ」

「ノースピードノーライフっ」

「は??」

「結婚も至急でいいんじゃないかな」


いや、まだ俺ら付き合ってもないんやけど!!
まあ確かに好きな子にそない言われたら嬉しいんやけど。
これってまるで……。


「スピード結婚だねー」

「さっ、先に言うなやっ」


よし。もう知らへんっ。
これは告白まで秒読み。ゴールインまで、あと少しって思ってやるからな!!

走り逃げする内海の手を掴んで、とりあえず「好きや」と叫んで、そして。


「大好きやあああっ!!!」



『スピードライフ』






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