失恋した。
って言ったら重く聞こえるかもしれん。正確に言えば、別れた。
あいつに恋をしていたわけじゃないから、別に「恋を失ったわけじゃない」

ゆえに、失恋じゃない。


「ふうん。で?」


隣席の彼女は、冷たく言い放つと、さも詰まらなさそうに目を黒板にうつした。
ひとがせっかく別れた報告をしているというのに、今日に限って真面目に授業を聞くなんざ、卑怯じゃ。


「で、って。そんだけ」

「へえ。お疲れ」

「……そんだけ?」

「そんだけ」


いつぞやだったかこの少女が「氷の女王」って呼ばれとったのを聞いたことがあった。
どうやら本当らしい。
もう、氷が冷たすぎて今度からドライアイスの女王に改名しなおせばいいのにの。
そんな彼女の態度に、少々……いや、大分不満を持ちつつも、俺も黒板を見る。

遠くに羅列する文字。見た事もない公式。


「ねえ、詐欺師君」


相変わらず黒板を見ながら、彼女は言った。


「なん」

「なぐさめてなんかあげないよ」


別に、誰も頼んどらん。
けど、なんでそこまで俺を毛嫌いしているのかの理由も分からず、ちらりと盗み見た彼女の横顔。


「なんで。そんな嫌われる理由が分からんのう」


別に害を加えたつもりもないし、そもそも今までそんなに話したこともない。

すると彼女はくすり、と息を落して……。
呟きをはいた。


「さあ、なんでだろうね。あててごらんよ」


あ、やばい。
今の顔はすごく綺麗じゃ。
この間まで付き合っとった女と比べ物にならん。
というよりも、やばい。
心臓が好奇心と対抗心とで急上昇。


「のう、内海」


俺と付き合って? おまんに惚れたき。
俺の言葉を聞いた彼女がこちらを向いて、呟いた。



『作戦成功』


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本当は、仁王のことが好きで、狙ってたんだよ。っていうクールな女の子の話。



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