校内放送が始まったのは、ほんの一時間前。かくして始まった、部活動対抗のデスマッチ。いや、デスマッチなんてそんな大したものではないと思うんだが、なんとなくそんな雰囲気が漂っている。
とりあえず、このめちゃくちゃな設定を実行できる跡部の金持ち具合に、もうあきれる以上に拍手までしたくなりそうな勢いだ。氷帝学園の中に、部活動生のユニフォームがぞろぞろとうごめく。跡部と榊監督の気まぐれだろうが、今回のことを俺が知らなかったのは確実に幸村のせいだ。
つくづく、面倒くさい従兄弟を持った、とは口が裂けても言えねえが。そんなことを口にしたと同時に、あいつの持つ黒魔術とかなんやらにかかって俺の命は危険にさらされるに違いねえ。そういえば、青学の不二もそんなのが使えるとか聞いたな……。
テニスを必至こいてしてる奴らが他の特技まで持ってるなんざ、物騒な話というか、なんつうか。
跡部から配られたプリントに目を通しながら、小さく溜息を落とす。大体、テニスしかしてきてねえ俺に他のスポーツなんてやりようがねえわけで、俺の名前があったのはバドミントンのところであった。バトミントンつったら、あれだよな。あの白い羽を打ち合いするやつ。テニスボールと全く重さも違えし、それ以上にネットが地面から浮いてやがる。
テニス一筋で生きてきた俺にとっては他のスポーツなんて、全く知らねえと言っても過言じゃねえし。……まあ、体の筋肉を平等に鍛えるためにランニングぐらいはしてきたが、さすがにバトミントンは。


「…まあ、なんとなくテニスに似てる…けどよ」
『あ、お兄ちゃんバトミントンなんだね』


俺のプリントを横から見てきた亜衣子が、少し嬉しそうな声を上げた。黒いつぶらな瞳がくるくると俺の前で潤んでは瞬く。


「ん?ああ、けどよ、俺バトミントンなんて分かんねえぜ?」
『私、少しだったら分かるから、教えるよ』
「ま、マジか!助かる!」
『うん、まかせてっ』


やっべー。今、あいつの周りに明らかにピンクのオーラが見えた。ぜってーそれが見えたのは、俺だけじゃねえと自負できるくらいだ。妹に教えてもらうとは、激ダサだが、亜衣子がキラキラした目で嬉しそうに言ってくる姿を見ていると、胸の高鳴りが……って、俺何を考えてんだ馬鹿。
体育館の中が次第にざわめいてきている。おそらく、他の奴らが移動を始めているんだろう。普段よりも騒がしいのは、普段と異なったこの状況を楽しんでいる奴らが多いからなのかは俺には関係ねえが、跡部のファンやらが、さっきから黄色い声援を耳の奥がキンキンなりそうなほどに叫びまくっている。相変わらず、跡部のファンはうるせえ、とは言えねえが。
その黄色い声に、一つ。耳に愛おしい声が届く。


『じゃあ、私ラケット借りてくるねっ』
「お、おい、俺がっ」
『大丈夫っ!待っててね』


妹ながらに健気な奴だと思う。あんなに健気な奴は他にいないって言うくらい、すっげー健気。それでいて、……可愛い。俺は適当に準備運動をしながらも、手首や足首を回す。あいつが帰ってくるまで暇だが、前回までのあらすじをするのも、面倒だからやめる。……というか、なんで俺がいちいちあらすじの説明をしなくちゃいけねえのかは知らねえけど。


『それは、あんたが主人公だからでしょ馬鹿宍戸』
「あ?誰が馬鹿だって……」
 

目の前に一人。ひどくご立腹な女一人。というか、その後にいる奴の満面の笑みといったら、俺でも今まで見た事がないっつうくらいなんだが、あえてそこは突っ込みをいれねえとして。


「……おい、それどうしたんだよ」


顔を真っ赤にしたゆかは、芥子色のジャージにわずかにのぞく半ズボンというなんともいえない格好をしていた。





11章


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