「顔ひどいことになってますよ宍戸さん」
「ひ、日吉……、なんだよこれ。どういうことだよ」
「今から説明しますよ」
 

そう言うと日吉は何故か眼鏡を装着して、どこから取り出したのかホワイトボードに綺麗な字で次々と字を書き出した。ああ、もう俺は絶対に突っ込むものか。


「まず、跡部さんが氷帝学園の会長で、多大なる権力を握っていることが大きな要因であるんです。つまり、あの人が許可したらなんでもOKなんです。……下剋上しがいがありますけどね。それで、昨日、突然立海大の幸村さんがこっちに来たいからどうにかしてよ、という風に言ってきたんです。勿論、それを部長が断るわけがないですから、すぐに業者に手配させて制服を用意したというわけです。俺も詳しくの理由は知りませんけどね」
「な……なるほど……」


って、なんでこいつはそこまで知ってんだよ。と口の中で小さくぼやきながらも俺は肩を落とした。つまりは、今日一日なんでかは知らねえけど、幸村は氷帝で授業を受けて、飯食って、まさか部活まで……。


「フフフ、それも楽しそうだね」
「げ、また心読みやがったな」


にこり、と微笑みながらも貫禄を漂わせた幸村が着ている氷帝の制服が、どことなく似合っていることになんとなくイラつく。


「へえ、そんな口利いてたら、会わせてやらないよ」


すると、どこか意味深に笑みを浮かべた幸村は、ポン、と俺の肩に手を置いた。


「……は、何を……」
『あ、お兄ちゃんっ』


コノ声。この、声、は……。


「亜衣子っ!」


「なんでここにいんだよっ」を続ける事が出来なかったのは、おそらく亜衣子が駆けて来る姿がすっげー可愛くて、もうなんつうか、小動物とかそんな類の生き物にしか見えなくて、思いっきり抱きしめてやりてえ、という気持ちが優先したからであって。愛くるしい俺の妹は、氷帝の制服を見事着こなして俺の胸に飛び込んできた。やべえ。やべえ。なんだよこの愛おしい存在。俺は今試されてんだよなぜってーに。俺は、自分を自制しながら、やさしく優しく亜衣子を抱きしめた。


「……つまり、こういうことですよ」
「なんや日吉、今日は説明役かいな」
「煩いですよ忍足さん」


日吉は、こほん、とひとつ咳払いをすると、びし、と人差し指をたてた。


「今日一日、幸村さんと亜衣子は氷帝の生徒として生活するってことです」
「くそくそ、なんかかっこいいぜ日吉!俺にもその眼鏡貸してくれっ」


そこの煩いのはほっておいて。
幸村の考えていることはよくわからねえし、なんで亜衣子までここにいるのかも理解できねえが、とにもかくにも、これは俺にとっては好都合だ。俺は、胸に飛び込んできた亜衣子を、ぎゅう、と抱きかえしながら小さく心の中でガッツポーズをこぼした。けど、ぜってーなんか起きるのは必至だな、とも思ったのは今は黙っておく。そこで、ちょうど良い具合にチャイムが響いたものだから、周囲がさらに騒がしくなりだした。


「じゃあ、案内してもらおうか、跡部」
「お前が指図すんじゃねえ幸村。行くぞ、樺地」
「うす」


なんだろうか。見慣れているようで見慣れていない光景だ。幸村も、どこか当たり前のように歩いているのがなんか勘に触る。


「ほら、行くで宍戸」
「お、おう」
『行こうお兄ちゃん』
「お、おう!」
「俺の時と反応違うやん」


当たり前だろ。亜衣子が一番だ。俺は、これから始まるであろう不安な日々に、ひくひくと頬の筋肉をひくつかせながらも、ぐい、と小さく腕を引かれたために俺はその足を進めた。
 



4章


back


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -