「ん、なんや……そない落ち込んでどないしたん」
「おう、宍戸っ、そんなに落ち込んでどうしたんだよ」


朝っぱらから色気を漂わせる無駄な伊達眼鏡とまたも無駄にテンションが高い男が俺の前に現れた。ダブルスも組んでいるだけあって朝から一緒なのな。と小さくぼやきながらも、近づいてくる忍足と向日にちら、と目をやる。


「……いや、う、な、なんでもねえよっ、ああ。……亜衣子が食われるっ」
「は? 何言うとるん。もしかして、昨日の亜衣子ちゃんの体育祭に盛り上がりすぎて頭がいってもうたんか」
「お前には言われたくねえよ!」


伊達眼鏡。と付け足したがその時にはすでに忍足は俺のほうではなく、なにやら女子と仲良さげにしゃべっていた。くそ、目線がさっきから足に行ってんだよ変態。


「で、誰に食われるんだよ」


向日が不思議そうに首をかしげるのに、ぼそりと「……魔王」と言ってやると、予想通り、向日は先ほどよりもぽかん、と首をかしげた。


「は? 宍戸、お前RPGにでもはまってるわけ?」
「違えよ……」


もう、説明する暇さえ惜しい。ってか、授業なんかほっといて今すぐ亜衣子の救助に走りてえ。あの男は、笑顔の裏で何を考えているか分かったモンじゃねえから、要注意だ。ていうよりも、亜衣子もあいつを信頼しきってるから、何かがおこらねえとも……ああああ。
こうしている間にも、あの男が手を出しているに違いねえ。従兄妹だってのに、なんでこんなに心配しなきゃなんねえんだよ。亜衣子が可愛すぎるのがいけねえのか? それとも幸村が亜衣子にべたべたしすぎてんのがいけねえのか。っていうか、あいつも妹いるだろうがよ。自分のところの妹に愛情注げばいいだろうがよ。っていうかああああ。


「俺、帰る」


あいつを食われてたまるかっ、と付け加えようとしたとき。


「はっ、何をあせってやがる宍戸」
「……ち、跡部かよ、なんだよ! 俺は忙しいんだよ!」
「はっ、八つ当たりなんか無様だぜ」


いつもに増して何かイラつくオーラを纏った男は、優雅にパチン、と指を鳴らす。その仕草にさえ周囲の女子が感嘆の溜息を漏らして、黄色い声を漏らしているもんだから、俺はそのキンキン声に一気に押しつぶされそうになる。大体、こいつもこいつで、朝っぱらから。


「煩いんだけど」
「……あ?」


今、幻聴が聞こえた。確かに幸村の声だよな。いや、待て。ここは氷帝学園の敷地内であって、今日は立海大との練習試合も入っていない。……というより、今気付いたけどあいつ今日学校なんじゃ……。


「跡部、君いつまでも王様気分にひたって楽しいのかい?」
「は、ひがみか幸村」
「フフフ。俺が君に?ひがむ要素一つもないんだけどな」
「よく言うぜ」


待て待て待て。なんでこいつが普通に氷帝の制服着て、なんの違和感もないようにココにいんだよ。おかしいだろう。ってか、気付け跡部ファンの奴ら。学校に他校の奴がいて、しかも跡部の事をけなしてたらきれるだろ普通は。っていうか常識的に、こいつが認められるわけ。


「キャー幸村君―、おはよう」
「ん? ああ、おはよう」


なんでお前は普通に挨拶なんかしてんだよっ。……俺の中の常識がくずれていく気がした。



3章


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