嗚呼、これは俺がおかしいのか。
いや、俺は自分で言うのも変だが、この金持ちが集まる学園の中で、唯一の一般的な常識を持っていると自負していたが、どうやら違うらしい。


「ねえ幸村君。今日のお昼一緒に食べようよ」
「えー今日は私が一緒に食べるのよっ」


まて。待て待て。
今日は、ってどういうことだよ。こいつが氷帝にいることにまず違和感を感じろよ。と心の奥底で突っ込みを入れることさえ面倒になってきた。今は、一時間目が終わった後の休み時間であり、氷帝に無断進入してきたといっても過言ではない幸村と、俺の大事な大事な亜衣子は、なんなくこのクラスに受けいれられた。ここの講師どもは、部外者をものの二言で許可してしまうあたりがすでに一般的な常識とかけ離れている。まあ、一ついうならば、亜衣子の制服は気味が悪いほどにサイズが合っているのは、どういうことだ、ってことくらいか。まさか俺の知らねえ間に採寸でもされてたのか、とか不満は次々にあふれ出すが、最上級に可愛いから許す。


「って。俺何を……」


いつもクラスメイトが着用しているはずの氷帝学園の制服は、あんなに可愛らしいものだったか、と自問自答するあたり、俺はシスコンという部類に分類されても反論できねえかもしれねえ。亜衣子が着るだけで、こんなにも違って見えるなんてよ。
だが、あれはすっげー似合ってる。俺の妹ということを大体的にアピールしておいてよかった。じゃねえと、変な虫がすぐにほいほいと亜衣子に寄ってくる確立100%だ。うわ、つい青学の乾の口癖がうつっちまった。激ダサだぜ。そんなことを考えつつも、クラスの女子共になにやら話しかけられている亜衣子に目をやる。初めは緊張して、俺のほうをちらちらと見ていたが、だんだんと打ち解けてきたらしく、少し照れたように笑うその姿は天使といってもいい。


「制服もすごい似合ってるしね」
「ああ。いつもは女子校の制服だからよ。なんつうか……ギャップっつうか……って!幸村!」
「フフフ。お前って本当単純」


さっきまで大勢の女子に囲まれていたはずの男は、どこか飄々と笑いながら、俺の肩に手を置いた。大体、こいつが今ココにいたら、今日の立海は誰が指揮を取るんだよ。真田か。柳か……まあ、俺には関係ないか。その間にも女子は幸村にきゃいきゃい手を振ってやがる。ご苦労なこった。俺がそんなことを考えているなんて知ってか知らずか幸村はどこか作り笑いをこぼす。……あーすっげー機嫌悪そうだ。長い間こいつとは従兄弟やってるからなんとなくそれが理解できた。


「んだよ、お前、騒がれるのが嫌なら、神奈川にさっさと……」
「……実はね、嬉しいんだ」


急に真剣な表情で苦笑する幸村に思わず言葉を失う。


「もう動けないかもしれない、そんな状態だったから……こうやって普通に笑えたりすることが嬉しいんだ」


そう言いながら笑みをこぼす幸村に何人かの女子が倒れた。必殺スマイルとはこいつのつかう笑みの事を言うに違いねえ。そうだ、こいつはあんな大病を乗り越えたんだ。


「そ、そうかよ」


そこを出されては、仕方ねえし。従兄弟としてもこいつがまたテニスを出来る事には普通によかったと思う。それだけのことをこいつは乗り越えたんだ。不意にあの頃の幸村が浮かんできて、儚げなあいつの姿が痛々しく思えていたことをじわじわと思い出した。




5章


back


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -