『景吾ー、ファイトー』
「はっ、しっかり目に焼き付けとけよっ!」


とりあえずやめろ。それ以上動くとお前の命がないぞゆか。
俺の心の声が聞こえるはずもなく、跡部が華麗に決めたシュートに、思わず感嘆している彼女の命はもう危ない。きっと隣の男によってあとから酷い目にあうことを思えば、しばし合掌してやりたくなった。その元凶がひどく冷めた声で言う。


「へえ、ふうん。ゆか?誰だろうそれ。俺には見えないな。幽霊かな」
「ゆ、幸村君。露骨すぎます」 
「え。なにがかな柳生。あ、亜衣子がこっち向いた。可愛いなぁ。亜衣子―、愛してるよー」
「参謀、神の子はどうしたんじゃ」
「……あまり多くを語ると俺の生命に関わる」
 

なんじゃ、つまらん。 そういいつつ、ふらりと現れた仁王はふらりと消えていってしまった。勿論それを追うように消えた柳生。嗚呼、今の時間を少々無駄にしてしまったな、とぼやく隣で不機嫌な精市。
確かにシスコンの宍戸も重症だが、こいつも重症だ。精市は俗に言うヤキモチを妬いている。それはそうだろう。精市は、だいぶゆかに愛情を注いでいるのだから。しかし、彼の愛情は少々歪んでいるというか。……まあ、素直じゃないのはゆかも同じであるから、お似合いのカップルと言ってしまえばそこまでなのだが。
そんな俺の癒しが、亜衣子の微笑だ、などといえば俺も宍戸に縄で縛られかねない、そう思ったと同時にブザーが鳴った。


「96対14でテニス部の勝利」
 


どうやら、これはダブルスコア以上のものらしい。ベンチに戻った跡部が、ゆかの額にさりげなく唇を寄せた。驚いた様子で顔を赤くしながら怒っている彼女に殺気に似たオーラを送る我が部長をどうとめるべきか。とりあえず悩む事が忙しいので今回はこのあたりにしておこう。
  


21章


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