「なんだよ白石」

その白石の言葉の先に居た宍戸は、その方向をちらりとも見ることなく、答える。すっかり汗のひいた彼の視線の先は、現在行われているバスケットボールの試合に向いている。コート上に響く小気味の良い高音に、鈍い音が重奏し、一つのメロディーを奏でては、きゅ、と止まる。不規則に鳴る音に重なるのは……。


「頼むからこの縄ほどいてくれやぁぁっ!」


彼の悲痛な声だった。まるでムンクの叫びの如きその顔と、聖書と呼ばれているはずの彼の完璧さを封印しかねない縄。幾重にも結ばれたほど蹴る事のない縄は、決して逃れる事ができぬ迷宮迷路の如き困惑と……。

「……って、さっきから何へんなナレーションしてやがる幸村っ」
「残念だな。今回は精市プラスこの俺、柳蓮二だ」
「お前は立海のデータマン、そして達人、……って違うだろ!」
「惜しいわ宍戸君。その突っ込みもうちょい力こめな」
「黙れ白石。永遠に縛っててやろうか」


ぽきぽきとこぶしを鳴らす宍戸は一度白石に蹴りをいれたが、それをなんなくと避けた白石の体には、幾重にも巻かれたロープ。


「まあ、部長が変態やからしゃあないっすわ」
「ざいぜーん……、なあ、善哉おごったるから今すぐこのロープをっ」
「あー、そういえば用事思い出したんで」


そのまま何も聞いていない、と言いたげな顔ですたすたと歩いていく後輩の背中を見つめる白石の体は今もなお縄に絞められるのであった。嗚呼、セカイとはなんと彼に酷い仕打ちを行うというのだろうか。しかしながらこれこそが世界の縮図であり、彼の体は縄という名の呪縛に縛られたまま解放されることはなかった。



17章


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