そして5分後。
「……おい、激ダサだぜ」
「……下剋上のしがいもありませんでした」
俺たちは、あっという間に勝ってしまったのである。それというのも、テニスと同じ要領で行っていると、なんとなくであるが試合が成り立っていき、最初のほうこそ苦労したものの、慣れてきてからはなんの支障もなかったわけだ。
「まあ、当然の結果だな」
「なんでお前が偉そうなんだよ跡部」
訂正。こいつが偉そうなのはいつもどうりだろう。それにしても汗をかく暇もなかったとはこのことだろう。そうとはいえ、ベンチに戻った時にタオルを持った亜衣子を見つけた瞬間に、ある意味別の汗が吹き出てきそうになったのは黙っておこう。
「で?この要領で試合をしていけばいいわけだな?」
「そうみたいやなぁ」
「あ、忍足。お前いきなり出てきてどうしたんだよ」
何故か知らないが試合もしていないというのに汗をかいている忍足から亜衣子を即効で離しながら言うと、忍足は妙に疲れきった表情で、体育館の入り口を指差した。
「跡部、言われたとおり連れてきたで」
「ん?ああ、ご苦労」
なんだか嫌な予感がする。こいつがこんな表情をする時に限っていい事なんてない。俺は、何か嫌な感じをびんびんに感じ取りながら、その嫌な予感が当たらないように、と祈っていた時。体育館の入り口で湧き上がる黄色い歓声と、聞き覚えのある声。
「なぁなぁ、この体育館ごっつ広いなっ」
「走ったらあかんで金ちゃん」
「俺が一番やっ」
「先輩、そないはしゃいだら、ださいっすわ」
「きゃーイケメンがいっぱいやわ」
「小春っ、浮気かっ!」
「走り甲斐がある体育館っちゅう感じやなっ」
「いきなり走ったらあかんで」
気のせいだ。いや、絶対的に俺は気のせいだと思いたいんだが……どうやら、無理らしい。俺より先に反応したのは、亜衣子だった。
『あれ、……白石……さん?』
「ん?おおっ、亜衣子!会たかったで」
そういいながら、涼しげな笑みをこぼす男。
万年絶頂なんて変な台詞を叫びまくっている変態。…それでいてあろうことか亜衣子の恋人。
「……し、白石」
「やってきたで氷帝学園イン四天宝寺やっ!」
んで、早速やけど。そう白石が言ったと同時に、俺の後ろにいた亜衣子の姿はなく気付けばその体は白石の腕の中で。白石は、亜衣子の細い体を両腕で抱きしめると、瞳を閉じる。
「やっぱ俺の彼女は絶頂っ!!」
「黙れ白石ぃぃぃぃ!」
俺のほうをちら、と見た白石が、小さく笑う。
「なんや宍戸君。そないやきもちやかんといて」
なんだよあの余裕っぷり。嗚呼、イライラしてきやがった。
「かくして、白石と宍戸の戦いの火蓋がきっておとされたのでした」
「……じゃねえよっ、なに嬉しそうにしてやがる幸村っ!」
にこにこと笑う幸村の口から最後に一言。
「あ、言い忘れてたけど、立海も今ココにむかってるから。走ってね」
「……」
……ああ、もうどうにでもなれっ!
15章
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