『……へ?あ、ええっ。ゆ、きむら、……くん? な、なんでここにいるのっ』
「間抜け顔だね。昨日走ってたときの顔と一緒だね」
『みっ見てたのっ?! 来ないでいいって言ったのっ』
「……それよりも……」


またか。毎回ゆかと口喧嘩が耐えねえ幸村は、一応ゆかの彼氏だったはずだが……。


「誰の体操服着るの? ほら、言ってみてよ」
『痛いっ、ギブ、ギブだって!馬鹿幸村っ』
「てめ、人の従兄妹になにしてやがる」
「は? まがいなりにも、一応俺の彼女だから。……多分ね」
『ひいいっ、痛いっ、千切れるっ』
 

彼氏は彼女の髪を引きちぎりそうなほどに引っ張りはしねえな。……あいつらの関係性が俺にはまったくもってわからねえ。まあ、ゆかを助けようものなら、幸村の機嫌がますます悪くなるから俺は何もつっこまねえが。……あれがあいつなりの愛情表現なのだろうか。すると、不意に亜衣子の声がふわりとその場に響く。


『お姉ちゃんっ!ゆき兄、おねえちゃん、すごく痛がってるよ』


嗚呼、こんな時でも亜衣子は優しい。俺の妹として天使の如き一声。もう、こいつが可愛くて俺は正直あいつの髪がとれようと抜けようとどうでもよくなってきた。あ、でも、あのままじゃ腰が折れるな。


「フフ、大丈夫だよ。これはこんくらいでは死なないから……で、誰の体操服を着るって?言ってごらんよ」
『着ないって、ああっ、腰折れるっ!鬼畜、魔王っ!人を「これ」扱いしやがって』
「折れればいいだろ」
『ひいいっ、痛いっ、痛いいっ』
『ゆき兄っ!』
 

そんなこんなで、ゆかが本気で死ぬんではないかというタイミングで、亜衣子が涙目で幸村を止めたため、どうにかゆかは延命。俺の妹は人の命さえ助けるナイチンゲールだ、と俺は独りでに幸せに浸っている間に。


「跡部。そこらへんの部屋ちょっと借りるよ」
『ちょ、まっ、やだっ、私帰りたいっ』
「あーん、お前勝手に……って、もう行きやがった」


ゆかは幸村に連行されていった。あいつは生きて帰ってくるだろうか……。今度は跡部まで機嫌が悪くなるものだから、ああ。もう俺は知った事か。


「……ちっ、幸村のやろう……まあいい。では、今から対戦相手を書いたプリントを配る、各人確認しやがれ」
 

一体、この展開はどうなるんだ。と独りでに溜息をこぼしつつも俺はプリントに目をやった。


 


10章


back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -