そのとき、不意にきょとん顔の幸村と眼が合った。


「あれ、お前に言ってなかった?ごめん宍戸」
「お前か幸村!なんで黙ってやがった!」
「……苦労かける」
「本当にかけすぎだ!帰れっ」


別に楽しそうだったし、お前はユニフォーム持ってるからいいだろ、と悪気もなく言う幸村に溜息をつく。


「……しっかしよ。まったく状況が理解できねえよ」
「そう来ると思いましたよ」
 

その声と共に、現れたのはレギュラージャージにまたさっきの眼鏡をかけた日吉だった。どうやらこいつは今回はこの役目らしく、ホワイトボードに文字を書いていく。


「今から、部活動ごとに対決をします。競技は、あとからプリントによって発表があります。試合に勝つごとに、負けたチームは勝ったチームの言う事を聞かなければいけないという究極のルールです。また、試合ごとにハンデやルールなどが変更されるというまさに下剋上のしがいがあります……なお、強制参加でもありまえせん。それに部活動生徒以外は全員応援となります。その際には、そのチームのユニフォームを着る事で、そのチームのメンバーもしくはマネージャーとしての仕事を行うことが許可されています」
「お、おう、なるほどな」
「分かってもらったなら結構です」
 

内容は分かったとはいえ、なんっつうか。突然すぎるっつうか……設定があまりにもあんまりだ。まあ、跡部らしいが……。「状況、ついていけてるか?」なんて優しく声をかけようと思い、隣にいた亜衣子に話しかけようとしたとき、その姿が無い事にあせりを感じた。やべえ、跡部のいきなりの発言に驚きすぎて亜衣子から気をそらしちまった。


「亜衣子っ?どこにっ」


体育館を見回すが、着替えをする奴ややなにかを準備する生徒やらで視界が悪い。
やべえ。亜衣子。亜衣子っ。思わず走り出してでもあいつを探し出そうとした時。


『馬鹿宍戸。可愛い妹の手離したら駄目でしょ』


……やべえ、あせりすぎて、やな奴の幻聴まで…。


「いてっ!」


どこからともなく飛んできたスリッパ。その投げられた方向を見ると、氷帝学園テニス部のレギュラージャージを見事に着こなした亜衣子と、ここにいてはいけない存在が確認できた。
やべえ、亜衣子がレギュラージャージを着てるなんて、反則だ。可愛すぎる。可愛すぎてあれはやべえ。これが、忍足が言ってた萌えってやつか。あの時は心底賛成も共感も出来なかったが、今なら存分に賛成できるじゃねえかっ。……じゃなくて。


「……おい跡部、部外者が増えてるぜ……」


約一名。なれなれしく亜衣子の肩を抱いているのは、俺のほうを刺しそうな勢いで見ている女。鋭すぎる眼となんか偉そうな態度。ああ、憂鬱だ。




8章


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