近頃、朝の空気が冷たく感じられる。もう秋がすぐそこまで来ているのかもしんねえな、なんて。らしくねえことを考えながら、空気を切るように走る。頬をさする温度に汗が混じる。朝は正直弱いが、他の奴らに負けねえくらい強くなるためには、このくらいはしねえといけねえってことは分かっている。走って、走って。勿論それだけじゃテニスは上手くなんねえし、つまり、自分がどれほど手を抜かずにやれるかっつうことが大事だと思う。
日課のランニングを行い、息を切らし家に戻る。そういや、今日は亜衣子は体育祭の振り替え休日だ。嗚呼、なんであいつの学校は休みだっつうのに、俺は違うんだよ……。普通に授業があるなんて正直うんざりだ。そんな不満をぐだぐだ考えながら家の玄関を開け、まだひっそりとした家の中に入る。

あいつ起きたかな。まだ起きてなかったら部屋に起こしに……。嗚呼、今何考えたんだよ俺。……激ダサだぜ。自分で墓穴ほった気がする。
俺の妹である亜衣子の学校は、俺が通う氷帝学園の姉妹校。俺と同じ氷帝に通いたいっていう亜衣子を必至で説得したのは、姉妹校であるその学校が女子高校だったから、という理由であることは否定しない。ちなみに、そこのかいちょ……いや、この話は面倒くせえからやめだ。

とにかく、学校が違うってだけでも正直心配だ。あいつは、可愛いし、可愛いし、とにもかくにも可愛いし。もうあれは殺人的に可愛い。いや、あいつは女子校だから、変な虫はつかねえと思うけどさ。


「でも最近の教師は手が早いよね」
「だよな……ロリコンは忍足だけでじゅうぶ……って!おい!幸村!お前いつからいた!」
「やだなあ、俺は亜衣子の従兄弟だから、亜衣子に会いに来るのは普通だろ」


そう言いつつなにやら優雅にコーヒーをすする幸村は、残念ながら俺の従兄弟。いや、お前なに勝手に人の家のコーヒー飲んでんだよ、とツッコミいれるのも面倒になってきた。


「いやいや俺こそお前が従兄弟で残念だよ」
「勝手に人の心読むなよ」


大体、こいつは神奈川県に住んでいるわけで、そもそも合鍵を渡した覚えは微塵もねえんだけど。なんで、俺と亜衣子の二人暮らしであるこの家の鍵を持ってんだよこいつ。嗚呼、でも深く考えるのは止めだ。こいつに人間としての常識は通用しねえから、俺も深く考える事を止める。こんな日常茶飯事を繰り返しながらも俺が生きてるのは……。


『ん?お兄ちゃん……と、あ、ゆき兄おはよう』
「お、亜衣子おは……」
「おはよう。今日も相変わらず可愛いね。寝ぼけた声とかすごく可愛い」


さりげなく俺の妹に顔近づけてんじゃねえよそれと黙れ幸村。大体。この朝の時間は、俺と亜衣子の有意義な時間なのに、なんでこいつに邪魔されなきゃいけねえんだよ!そう心の中でツッコミをいれつつ、俺は小さく溜息を付いた。すると、不意に腕に感じる違和感。その方向を見ると、小さく白い手が俺の腕に触れていた。


「亜衣子? どうした?」
『お兄ちゃん』


あああ、なんでこいつ可愛いんだよっ?
名前を呼ばれたことだけで高鳴る胸に、とりあえずトキメキと名前をつけてみた。


1章


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