現在試合に出ているのは跡部、忍足、鳳、向日、日吉。そして、ベンチにいるのは宍戸、というわけだが、その宍戸の最愛の妹である亜衣子はしっかりと宍戸の傍にいる。そしてその彼女の傍にいるのが縄で縛られた白石というわけだ。亜衣子に会った瞬間に亜衣子に手を出したらしい白石への制裁、といったところか。宍戸はどこからか持ってきたロープで白石をぐるぐると巻いてしまい、今の状況になる。さすがは宍戸。彼の起こす行動を分かっていて、ロープを用意していたのだろう。そこは兄としての本能が働いたのか。もしくは別の何かなのかは俺は口を挟む気はないが。
その兄と恋人の無言の戦いを見ていた俺の横で一つ声が落ちる。


「ほっんと……白石もよくやるよね」
 

精市は、それをぼんやりと眺めながら跡部がシュートを決めた回数を先ほどから丁寧にノートに正の字を書いて数えている。一体その数字をなんに使うのかは、俺は尋ねまい。たとえ、精市が最近黒魔術に磨きをかけていると知ってたとしても、なにも詮索しないこととしよう。
しかし、いつもならば意気揚々としている立海の神の子は先ほどから溜息の連続だ。その理由を知らないわけでもないが、いかんせん俺が来る前に起こったらしい出来事が理由のようだから、俺が無理に口を出すわけにもいかないだろう。簡単に説明するならば、どうも精市のジャージを着ていたはずのゆかが今は、氷帝、つまり跡部のジャージを着ているのだ。白石と宍戸の関係も問題だが、跡部と精市の関係も相当なものだな。などと考えていると、後の方から人影が二つ。……あれは。


「どうしたんじゃ幸村。恋わずらいかの?」
「仁王君。勝手に邪魔をしてはいけませんよ」
 

へらへらと笑う仁王は、どこか不機嫌の精市にわざとらしく絡む。それを止める柳生の気苦労を少しばかり理解する。
銀の髪を揺らした仁王が乗せた手を軽く払う事もせず、彼は口を開く。


「別に。人を呼んどいて、立海の試合はまだまだだって言う自称王様に殺意を覚えてるだけ。あーあ、ってかさ、氷帝のお遊戯会にわざわざ来てやってんのに、この扱いないよね? イライラするなぁ」
「ほう、それだけかのう」
 

詐欺師が多少の含みをもった笑い方をすると、精市は鋭い目線をそちらに送った。

「何が言いたいのかな」
「俺はてっきりまるで跡部の彼女かってくらい甲斐甲斐しく氷帝の世話をやいとる奴と
関係しとると思ったんじゃがのう」
 

仁王が言うのは、ゆかのことだ。
跡部の従姉妹である彼女は、かつてバスケをしていたこともあってか、(それと跡部の強引な誘引もあってか)現在選手にお茶を渡したり、タオルを渡したりとせわしなくベンチを駆けている。彼女の体には少し、いやだいぶ大きすぎるジャージが、なんとも言えない背徳感をかもしだしていることは、誰もが感じ取っているが。


「……」
「頼む精市。これ以上ペンを折られると、俺のものが無くなる」
「あ、ごめんね柳」


相変わらず、ゆかのことを相当好いているらしい精市のその手に握られている折られたペンを回収しながら、俺は溜息をついた。
 


20章


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