「……俺、ですか?」
「ん?日吉か」
 
あいつ、バトミントンなんか出来んのか?なんて疑問を抱くと同時に、俺の肩に重みがかかる。

「宍戸さんっ、俺、宍戸さんとペアをっ」
「だっーっ、長太郎っ、重いだろうがっ」
「だって、俺たちが普通ならペアですよねっ!」

何故か涙目で訴える長太郎をよそに、日吉は早速準備運動を始めていた。どうやら、試合をする時には先ほどまでつけていたあの似非っぽい眼鏡は外すらしく、いつもどうりの闘志を潜めた瞳が俺に向けられる。

「先輩……やるからには勝ちましょう」
「お、おうっ!当たり前だろっ」
「これでやっと下克上だ…。今日は説明役で終わるかと思ったが…一安心ですよ」
 
そうか、お前結構気にしてたのか。なんか、健気っつうか…見かけによらず可愛いというか……。って、俺何考えてんだ!俺が可愛いと思うのは世界中でも、亜衣子だけだ!

「……よくそんな恥ずかしいこと考えられるよね」
「う、うっせー、事実だからし……っ!幸村っ!」
「へえ、何が事実なのかな?」
「……ちっ、はめやがったなっ……っていうか、……お前、いいのかよ」
「別に、誰のジャージ着てても俺には関係ないけどね」


そう言いながらも、どこか不機嫌なところを見ると、こいつも相当、ゆかに惚れてんだな、と思った。それを素直に言ってやればいいのに、お互いに馬鹿みたいに意地を張っているこいつらはどうにも見ててこっちが危ういというか。


「まあ、あとからちゃんとお仕置きだしね」
「……うしっ、バドミントンだっ」


そんな幸村をほっといて、俺はラケットを片手に亜衣子のところへ向かう。どこか少しだけ不安げなのは、俺が普段とはしなれないスポーツをするからなのか、それとも単純に俺のことを案じてくれているのか…。
 そうだよな。負けたチームは勝ったチームの言う事を聞かなきゃいけねえもんな。そう考えると、亜衣子の必至な目が、限りなく愛おしく思えて、俺は亜衣子の頭を優しく撫でてやった。

「大丈夫だぜ!この間一緒にバトミントンして遊んだしな」
「だけど…遊んだだけだし…」
「心配すんなって、ぜってー勝ってくるからよ」
 
そう言うと、安心したように亜衣子は、花がほころぶような笑みをこぼした。その笑みに押されるようにして俺は、ラケットを握りなおした。相手は、あろうことかバトミントン経験者。まあ、今はラグビー部だから、今もやっているわけではないのだけれども、経験がないに等しい俺と日吉にとっては苦しい試合となるだろう。でも、そんなところを亜衣子に見せるわけにはいかねえ。
額に滲む汗をぬぐい、帽子をかぶりなおす。再び後を振り向くと、氷帝のジャージを着こなした亜衣子が、小さく手を振っていた。

「よっしゃ!いくぜ日吉」
「下剋上ですね」


気合を十分にいれ、コートへと足を踏み入れた。





14章


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