いっそのこと出会わなければよかったのに。そんな台詞は私達の間では通用しないんだね。そう呟いたその人の表情があまりにも美しすぎて俺は何も言わずに彼女の体を抱きしめる事しか出来なかった。どうしてこういう状況では何時ものように饒舌になりはしないのか。それはきっと、俺が心からこの人を愛してしまったからだ。背徳感からの恋慕か、いやそんな生ぬるいものじゃない。根源から見直したほうがいいほどの愛情は憎しみと紙一重と言うほどに熱く燃え滾る。


「愛しているよ、りん」
『ごめんね、臨也』


謝らないでほしい。
俺もりんを愛していて、りんも俺を愛しているのだからこれ以上なにも望んでなどいないのだから。それなのに彼女は呼吸をするのと同じくらいそうやって謝罪の言葉を述べる。例えば俺がその体を抱きしめる時。例えば俺がその唇に口付ける時。甘くとろけそうな時間に酔う俺の前でりんは目に雫をたくさん溜め込んで苦笑するんだ。

だから謝らないといけないのは俺なんだ。
先に愛したのがどちらかなんて分かりきっている。俺が彼女の人生を狂わせてしまったんだ。誰よりも愛おしい人だから誰よりも幸せにしたいと望んでしまったから。その役目が俺以外であることを認めたくなかったから。


「……震えてる。……怖い?」


怖くない、と言いながら彼女は力なく微笑んだ。
相変わらず嘘をつくのが下手なその笑顔に何度も愛おしさを告げた。その度に俺の中で生まれていく情をもう言葉にすることなんて出来ない。
これからもきっと俺たちはこうやって暗闇の中で抱きしめあうことしか許されない。それが俺たちに与えられた試練であって、それが俺たちが背負うべき罰なのだ、と。
だけど。



『でもね、幸せよ。私、ね幸せよ』


たとえ、世界が私達を断絶したとしても。そう呟いたその人に、今度は俺が謝る番だった。愛することさえ許されない。



「ごめん。ごめんね姉さん」



嗚呼、セカイは酷く無常だ。







「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -