君のその笑顔、俺すっごい嫌いだなぁー。とかそんなことを笑顔で言いながらも、私の目の前でアイスコーヒーを啜る臨也を見て息をはく。安っぽいものは嫌いって前に言ってた気がしたのは私の気のせいだろうか。どうせ、そのうちそのインスタントコーヒーの味に飽きて私にそれが回ってくるのは目に見えてるんだけどね。
私はというと、キャラメルモカをちまちまとストローから吸引しつつ、手元の赤い手帳を見る。
なんの意味もないその行為をしながらまた上を向いた。ばちりと目があったのはやっぱり臨也で、彼は口元で弧を描いた。
『……その笑い方やだ』
「りんの真似だよ」
『あっそ……っ、……さむ……』
「出る?」
『……別に』
真夏なのに寒いのは、ガンガンとクーラーがかかっているようなカフェにいるからで、私が自分の足でここに来たのも間違いない。
なのに、なんでこんなに冷めた笑いしか出ないのかが分からない。
「ねぇ、聞いてる?」
『聞いてる』
わざとらしく笑ってやると彼は鋭い目で私を刺す。
「だから、その笑顔嫌いだって」
『……じゃあ見なけりゃいいでしょ』
再び手帳に目を落とせばその視界を邪魔するように開かれた大きな手。
目をパチクリしていると、何時の間にか頬にすべりこんできていたのは、臨也の指。
「お客様向け笑顔みたいで嫌い」
『は?』
「俺専用笑顔になってよ」
そんな馬鹿らしいことを言い出した臨也を心底嘲笑したくなって、そのままの表情を見せてやると彼は幸福を噛みしめるように私の唇を塞いだ。
ほら、あんた専用。