そうか。私こんなにあの人の事好きだったんだ、って。そんなことを今更気づいたって遅いけど。
隣に座る今吉の名前を呼べば、彼は何も言わず私の頭を二度撫でた。いつもならば、うざったいそれは、今日に限っては少しばかり嬉しくも思ってしまうのだから不思議だ。もう部活に行かないといけない時間のくせに、今吉は私の隣に入る。それが彼の優しさだと私は知っている。
「運命とかさ、そういうの私ちょっと苦手なんだよね」
「そーか」
「……だけどさ、森山君とは、それを信じたいって、思ってたの」
だからこそ、だからからか。私が知らない私に恋をしたあの人の横顔に私は恋に落ちたなんて。そんなのなんて運命的で、なんて悲しくて、どうしようもなくてやりきれない。自分から距離を置いたくせに、どうしようもないぐらいあの人に会いたくて、今すぐに好きだと叫びたいぐらいには苦しい。
「……森山君に、嫌われちゃったかも。私酷い事言った」
自分で傷つけたはずの貴方に会いたくてたまらない。そんな私を見て今吉は、一つ息を吐いた後で立ち上がった。遠くでチャイムが聞こえる。
「嫌われたかどうかは、自分で確認するしかないなぁ」
フェンスの向こう側を見た後で彼はそう言った。オレンジ色がだんだんと空を覆っていく。今吉の黒い髪にその色が混じって、なんだか泣きたくもなってくる。
「そうだよ、ね。分かってる。けど」
「けど?」
「どんな顔して会えばいいのかも分からないし、……会いたいって言って、すぐ会えるわけじゃ」
ないから、と。続ける筈だった私の言葉を遮るように、今吉が私の腕をつかむ。
「ちょ、何さ」
フェンスの向こう側を指差しながら彼は笑う。その横顔がやけに優しくて、笑いたくなった。だけどその顔の意味に気づいた私の脳内は、次の瞬間には別の名前を呼んでいた。
「も、り、……やま、君?」
屋上から目をやった学校の入口。見覚えのあり過ぎる制服をまとっている彼が立っている。誰かを必死で探すように立っている。
「なん、で」
そこで気づいたように携帯に目をやれば、彼からのおびただしい着信に思わず変な声が漏れた。この時間にここにいるってことは、そういうことだ。ああもう、やだ。こんなの狡い。あんなの狡い。
「すぐ会えるなぁ」
「ね、本当、やになっちゃう」
「……なぁ、」
呼び掛けられて上を向くと、彼の大きな手が私の頬を包み込んだ。
「振られようが、またより戻そうが、どっちでも、ちゃんと話聞いたる。行っといで」
何さ、今吉のくせに。そんな心強い事言われたら、泣いちゃうじゃんばか。

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