私の声は、神様に奪われました。
なんて、そんなロマンチックなことは言わない。だけど、実際的に私は小さい頃にかかった病の回復と一緒に声を失った。音は聞こえても、発することは出来ない。まだ幼かった私にその事実はいまいち理解できず、それを理解できるようになったのは物心がついた頃。周りの友達は美しい声で話すのに、私にはそれが出来ない。ためしに出した声は上ずったような声で、その時私は初めて世界の色が消えていくのを感じた。

そんな私がそれでも生きようと思えたのは、その当時に恋に落ちた彼のおかげ。


『栞』


太陽のような、人。
想いを伝えることはできなかった。だけど、声を発することができない私のそばで彼はいつも笑っていた。もう、十年も前の話だけど。
私の体調のことも含め、自然の多い田舎に引っ越すこととなった私は、彼の前からそれこそ風のように消えた。
これでいいんだと言い聞かせたのは、彼は私にとってまぶしすぎたから。

そして、何故彼が今ココにいるんだろう。
ぎらりとした目が私を捕らえた時に、私はどうしようもない感情にさいなまれてしまった。褐色の肌が目に痛い。ずっと見つめてきたその本体にまさか見つめられるというシチュエーションが来るなんて金輪際思ったことも考えた事もなかった私はただ、ただ驚いたままで目を見開く。そのまま私の目の前に来た青峰君は、そっと息を吐くと大きな手で私の頬をそっと包んだ。


「やっと……見つけたぜ」


嗚呼、見つかっちゃった。
そう答えるべき声は私にはないけど、その感情をせめて彼に伝えてあげようと微笑む。青峰君は鋭い瞳を微かに緩めて私の名前を何度も呼びながら抱きしめてくれた。大きな大きな体。ずっと触れたいと思っていたの。ずっと貴方に憧れていたの。私の前に貴方が現れた時から景色ががらりと変わるんじゃないかってほど恋をしていたのだから。


「もう、離さねえ。……ぜってー、離さねえ」


どうしてこんな時に彼に思いを伝える手段を私は持っていないんだろう。もどかしい。もどかしすぎて涙が溢れてくる。もしも声が出せたのならば、青峰君に愛おしいって思いをさんざめく雨のように与えてあげることが出来るのに。声にならない愛おしい叫びをどうやって伝えたらいいの。そんな感情を抱いていると、不意にこつりと額に感触。


「……そんな顔すんなって。……お前の気持ちはちゃんと、伝わってっからよ」
「っ……」
「……ああ、俺も、俺もお前が大好きだ」


にかりと微笑んだその笑みは、私がずっと待ち望んでいたもので、私は少しかがんでくれた青峰君の首に腕を巻きつけてそっとその唇に唇で愛をこぼした。声の無い私に出来る精一杯の愛情表現に驚いたらしい青峰君は、一瞬呆けた後に、すぐさまその唇を返してくれた。何度も触れ合うその瞬間に、喉の奥から、小さく言葉が溢れた。


「あ、がと。き、よ、あ、おね、く、」


いつか、私の声が出る日が来たらね。ちゃんと伝えるから。


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なんか、シチュエーションばかり先走って、内容おろそか気味……




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